2014年,菅間博先生,亀山香織先生が「甲状腺の細胞診の新しい報告様式と技術」という特集を企画されました。当時の最大の話題は「甲状腺細胞診のBethesdaシステムを新しい報告様式として採用するか否か」と「液状化細胞診(Liquid-based cytology: LBC)について」でした。この10年で,いずれも一般的な診療現場に取り入れられました。甲状腺穿刺吸引細胞診では,Bethesdaシステムを我が国の診療に対応させた甲状腺癌取扱い規約の報告様式が主に使用されています。また,西日本を中心にLBCを採用する施設が増加しており,免疫染色や遺伝子解析の需要とともに,今後もさらに増加する見込みです。
内分泌外科の分野では,細胞診の用途は比較的限られています。上記以外の細胞診に関する特集は,2020年の「超音波ガイド下甲状腺穿刺吸引細胞診~最近の話題」(福島光浩先生)のみでした。しかし,細胞診や周辺技術の進歩に伴い,甲状腺以外の内分泌臓器においても細胞診活用の可能性が広がりつつあります。今回の特集では「細胞診のトピックス」として,現状のアップデートを行うとともに,新しい技術や応用法を紹介します。
北里大学の前田一郎先生には,「デジタルパソロジーとデジタルサイトロジー,病理機械学習,病理人工知能」というテーマで,病理・細胞診分野におけるデジタル化の現状とその可能性について解説していただきます。隈病院の鈴木彩菜先生,廣川満良先生には,「甲状腺細胞診検体の遺伝学的検査」として欧米でスタンダードになりつつある術前の遺伝子パネル検査の紹介と我が国における開発の現状について解説していただきます。また,大東文化大学の日野るみ先生からは,蛍光色素を利用して生きた癌細胞をリアルタイムで特異的に標識する新しい癌細胞の検出方法をご紹介いただきます。
さらに,がん研究会有明病院からは,「乳腺細胞診のトピックス」および「EUS-FNA におけるROSEの役割と膵神経内分泌腫瘍の細胞診断」として,甲状腺以外の臓器における新しい細胞診の運用や報告様式と神経内分泌腫瘍の細胞診について紹介・解説します。
本特集が,甲状腺に限らず,様々な内分泌臓器の診療に役立つことを願っております。ご多忙にもかかわらず,執筆をお引き受け下さった担当の先生方に,心より御礼申し上げます。