日本内分泌外科学会雑誌
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特集1
副腎腫瘍に対する副腎摘除術の適応について再考する
氏家 剛河嶋 厚成高尾 徹也宮川 康辻畑 正雄辻村 晃野々村 祝夫
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2024 年 41 巻 4 号 p. 235-239

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抄録

どのような疾患においても,過剰診断・過剰治療を回避することは,患者・医師・医療経済的にもメリットが大きい。過剰診断・過剰治療を回避するためには,回り道をすることなく適切な検査を行い,確定診断し,必要十分な治療を行うことが重要である。

副腎腫瘍の治療において,外科的切除が大きな役割を担っていることは誰もが認めるところである。機能性副腎腫瘍に対する摘除術は,各ガイドラインにそって診療を行うことで適応に悩むことはほとんどない。一方,内分泌非活性副腎腫瘍に対しては,画像診断技術が発展している現在においても,適切に診断し治療することは決して簡単な状況ではない。

内分泌非活性副腎腫瘍の治療指針を明示する目的で,2022年に内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドラインが発刊された。本ガイドラインをレビューし,副腎腫瘍に対する副腎摘除術の適応について再考し,手術を行わなかった症例に対する経過観察方法についても言及したい。

はじめに

日常診療において,過剰診断・過剰治療を回避するためには,回り道をすることなく適切な検査を行い,確定診断し,必要十分な治療を行うことが肝要である。これには,診療ガイドラインが非常に参考になる。

副腎腫瘍分野においては(図1),内分泌活性を有する機能性副腎腫瘍に関しては,褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン[]が2018年に,原発性アルドステロン症診療ガイドライン[]が2021年に発刊されている。クッシング症候群においても,ガイドラインは存在しないものの,系統だった診療プロセスが確立されており,回り道をすることはほとんどないと思われる。これら機能性副腎腫瘍においては,内分泌内科医の協力もあり,症例数も確保されていることから,診療体系が確立していると考えられる。一方,内分泌非活性副腎腫瘍に関しては長らく特化されたガイドラインが存在していなかったために,海外の副腎偶発腫瘍ガイドラインを参照して診療を行わざるを得なかった。そこで,本邦において,2022年に内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドライン[]が日本泌尿器科学会および日本内分泌外科学会の監修のもとで発刊された。ただ,内分泌非活性副腎腫瘍自体が様々な病態の集合体であり(表1),全体像を俯瞰しづらい状況には以前から変わりがない。日常診療において,回り道をしないようにするためにも,今一度,内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドラインをレビューしたうえで,われわれ内分泌外科医師が携わる外科的治療,すなわち,副腎腫瘍に対する副腎摘除術の適応について再考したいと思う。

図1.

本邦における副腎偶発腫瘍診断アルゴリズム(文献[]より引用改変)

表1.

主な内分泌非活性副腎腫瘍(文献[]より引用)

内分泌非活性副腎腫瘍の分類

副腎腫瘍は,①良悪性,②腫瘍の性質(機能性か内分泌非活性か),③腫瘍発見の動機(症候性か偶発性か)で分類される。悪性腫瘍の頻度が100万人あたり年間1~2人と極めて低いことから[],良悪性で分類せず,腫瘍の性質もしくは発見動機で分類されることが多い。治療戦略を考えるときに,ホルモン活性があるどうかを考える必要があるため,機能性か内分泌非活性かを念頭において診療を開始することがほとんどであると思われる。

副腎偶発腫瘍のマネジメントに関しては,「副腎腫瘍取扱い規約第3版」[]に記載されているアルゴリズムがよくまとまっており,これを改変して図1に示す。後述するが,非機能性副腎腫瘍で悪性を疑う所見は原図では3cmであったが,現在のガイドライン[]にならって4cmに変更した。

機能性副腎腫瘍としては,褐色細胞腫・パラガングリオーマ,原発性アルドステロン症やクッシング症候群を呈する副腎腫瘍が挙げられる。これらは前述の通り,各ガイドラインにそって診療することが可能であるので,手術適応に関しても明確に判断することができる。

一方,内分泌非活性副腎腫瘍に関しては,様々な病態の集合体であり複雑である。表1に「副腎腫瘍取扱い規約第3版」[]に掲載されている内分泌非活性副腎腫瘍の分類をそのまま示す。腺腫や骨髄脂肪腫などの良性腫瘍や,副腎皮質結節などの非腫瘍性病変とともに,副腎皮質癌や悪性神経鞘腫,転移癌などの悪性腫瘍も含まれる。このなかで,悪性腫瘍疾患を見逃してはならない。内分泌非活性副腎腫瘍のなかで悪性腫瘍を見逃さずに適切に手術加療を遂行するためには画像診断が重要である。

内分泌非活性副腎腫瘍に対する画像診断および手術適応

内分泌非活性と診断された場合,重要なポイントとなるのは,積極的に悪性疾患を疑うかどうかということになる。悪性疾患のなかには,転移性も含まれるが,転移性であるかどうかは既往歴から判断することができるし,多くは原疾患のfollow中であるので,あまり悩むことはないと思われる。

原発性副腎悪性腫瘍である副腎皮質癌に画像上の特徴的な所見が乏しいとされているため[],まずは内分泌非活性副腎腫瘍の2/3以上を占めるとされる副腎皮質腺腫を診断し除外することからスタートする。

内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドライン[]には単純CTの有用性について記載がある。すなわち,単純CTは客観的に病変の有無,サイズが計測可能であり,また関心領域のCT値を簡易に計測することができ,副腎偶発腫のほとんどを占めるlipid-rich adenomaの診断に有用であり,また副腎骨髄脂肪腫,副腎出血,副腎結核の診断にも有用である。造影CTは,単純CTにて腺腫と鑑別がつかない場合は必要となる。メタアナリシスの結果では,腫瘍内の平均単純CT値10HU未満を腺腫とした場合の感度・特異度はそれぞれ71%,98%と腺腫に対する単純CTの診断能を評価している[]。

10HUを超えた副腎偶発腫に対しては,MRIのchemical shift imagingや造影CTによる追加検査が推奨される。このようなケースでは,造影CTの正診率が88.1%,感度91.7%,特異度が74.8%に対して,chemical shift MRIの正診率が73.6%,感度67.1%,特異度が88.7%との報告がある[]。

以上から,単純CTにて高吸収を呈する腫瘍におけるChemical shift MRIの有用性は限定的であり,被曝がなく,造影剤を使用しない検査として考慮すべき検査とされている。なお,Chemical shift MRIの詳細については,本稿では割愛させていただき,成書をご参照いただきたい。

このように,内分泌非活性副腎腫瘍のなかでも画像診断によって質的な評価がしやすいとされる副腎腺腫においてさえ確定診断となると決定打がない。悪性腫瘍を示唆する画像所見としては,内部構造不均一,辺縁不整,局所浸潤,リンパ節転移,遠隔転移などとされるが,早期の副腎癌ではこのような画像所見を呈さないことも多い[]。そこで,確定診断のためには組織生検はどうか,ということになる。

内分泌非活性副腎腫瘍の組織生検は,治療方針が生検により変更する場合(副腎以外の臓器由来の悪性腫瘍に対する抗がん剤治療など)にて検討の余地があるが,良性腺腫と副腎皮質癌の鑑別に組織生検は推奨できないとしている。32報(2,190症例)のメタアナリシス[]によれば,生検による副腎皮質癌の診断の感度は70%と報告されており,手術切除検体でもそもそも良悪性の診断が難しい副腎疾患においては,内分泌非活性副腎腫瘍に対する組織生検の有用性は限定的であるといわざるを得ない。

画像検査による質的診断や組織生検によって確定診断に至らないのであれば,必然的に腫瘍径に着目することとなる。これまでの臨床研究で,3~6cmの範囲で悪性を推定しうる腫瘍径のカットオフ値の設定についての検討が多くなされてきた。

Manteroら[]は,1,004例の副腎偶発腫瘍症例(47例が副腎癌)を対象とした研究で,副腎癌診断における腫瘍径のカットオフ値を4cmにすると感度,特異度は93%,42%,5cmにすると81%,63%,6cmにすると74%,73%であったと報告している。副腎癌のような悪性度の高い疾患のスクリーニングの意義としては感度を重視し,4cmをカットオフ値として推奨している。その他の研究においても,4cmをカットオフ値として推奨している報告が多い。米国放射線学会も4cmとしている[10]。一方,欧州内分泌学会による「European Society of Endocrine Surgeons(ESES)and European Network for the Study of Adrenal Tumors(ENSAT)の副腎癌の診療ガイドライン」(2017年)[11]においては,副腎癌を疑う腫瘍径は6cm以上に設定している。

本邦においては「副腎腫瘍取扱い規約第3版」[]では,カットオフ値を3cmに設定していたが,副腎偶発腫の診断時腫瘍径のデータも参考にしたうえで[12],内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドラインでは4cmに設定している。4cmを副腎悪性腫瘍のカットオフ値とした場合,最新の2023年のメタアナリシス[13]では,診断感度が85%,特異度が75%と解析しており,診断精度としてはまだまだ不十分であるとしかいいようがない。

本報告でも言及されているが,過去のほとんどの研究が画像所見の質的診断を考慮していないので,画像診断機器の発達が著しい現在,質的診断を加味した臨床研究が必要と考えられる。

以上,結果的には内分泌非活性副腎腫瘍のなかで,回り道を行うことなく,悪性腫瘍疾患の診断にたどり着くことは容易ではないといえる。

内分泌非活性副腎腫瘍に対する手術方法

内分泌非活性副腎腫瘍に推奨される標準的治療は副腎摘除術である。適応に関しては,悪性が疑われる腫瘍,すなわち,①悪性を示唆する画像所見を有する腫瘍②悪性を疑う大きさを有する腫瘍(腫瘍径が4cm以上)である。転移性副腎腫瘍に関しては,原則,原発巣癌腫の治療方針に従い,症例毎に検討が必要である。

内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドライン[]においては,腹腔鏡下副腎摘除術は,手術適応となる良性の内分泌非活性副腎腫瘍のうち,腫瘍径が4~12cmの腫瘍に対する標準術式であると記載され,エビデンスレベル4,推奨グレードもBとエビデンスも十分であると評価している。

一方,副腎癌に関しては,開腹による根治手術が標準術式であり,腹腔鏡手術は局所浸潤やリンパ節転移がない早期の副腎癌に限って推奨されるとしている(エビデンスレベル4,推奨グレードC1)。先述の欧州内分泌学会による「ESES and ENSATの副腎癌の診療ガイドライン」[10]においても,画像所見で副腎癌が疑われる腫瘍のうち,局所浸潤やリンパ節転移のない,6cm以下の小さな腫瘍が腹腔鏡手術の適応とされている。腹腔鏡手術の適応となる腫瘍径のカットオフ値に関して,一定の客観的基準は定まっておらず,今後の検討課題といえる。腹腔鏡下手術は腫瘍径が大きくなるにつれて難易度が増すため,大きな副腎癌に対する適応については手術チームおよび術者の経験や技量に基づき慎重に検討すべきである。また,術中に局所浸潤,リンパ節転移,被膜損傷を認めた場合,迷わず開腹手術に移行すべきである。

腹腔鏡下手術においては,様々な癌腫でロボット支援下手術が適応拡大している。本邦においても2022年に副腎腫瘍に対するロボット支援腹腔鏡下副腎摘除術が保険適応となった。症例を蓄積したうえで,適応拡大が可能かどうかの検討が望まれるところである。

手術非施行の内分泌非活性副腎腫瘍の経過観察方法

結果的には確定診断に至らなかった場合でもあり,本稿で目標とした「回り道なし」での副腎腫瘍診療を達成できなかったケースも含まれる。ただ,臨床的には多く遭遇する場面であり,過剰検査の回避という側面から,簡単にまとめてみたい。

副腎偶発腫瘍のマネジメントに関しては本邦よりも欧米のほうが先行してガイドラインを発刊しており,内分泌非活性副腎腫瘍に関しても,これらを参照することが多かった。「European Society of Endocrinology(ESE)and ENSATの副腎偶発腫瘍ガイドライン[14]」(2016年)では,6~12カ月まで経過観察し,5mm以上の増大かつ腫瘍径の20%以上の増大を,手術を考慮する基準としている。驚くべきことに,腫瘍径4cm未満でかつ画像上良性の所見を呈する腫瘍に関しては,画像フォローは行わなくてよいとしている。2017年に発出された米国放射線医学会(American College of Radiology:ACR)のガイドライン[15]でも,画像上良性の所見を呈する腫瘍に関しては,画像フォローは必要ないとしている。2023年に米国泌尿器科学会も参加したガイドライン[16]では,ESE/ENSATやACRのガイドラインと同様に,非機能性で画像上良性であること,かつ腫瘍径が4cm未満であれば,画像検査および内分泌検査のフォローは不要としている。

本邦の内分泌非活性副腎腫瘍診療ガイドラインでは,良性所見時においても,おおむね5年間の画像検査(主にCT,MRI)と内分泌検査での経過観察が提唱されると記載しており,推奨とは明記されていない。様々な治療指針を総合して,最長2年間の画像検査と4年間の内分泌検査を推奨と要約しつつも,5年ぐらいは経過観察を行うことが妥当であるとの日本の診療事情を加味した結果といえよう。今後も,横断的検証と費用対効果を考慮した診療体系の確立が望まれるところである。

おわりに

どのような疾患においても,過剰診断・過剰治療を回避することは,患者・医師・医療経済的にもメリットが大きい。画像診断機器の発達,ロボット支援手術の普及など,医療現場のハード面の進歩は著しく,診療ガイドラインの整備も進んでいる疾患も増えてきている印象を受ける。こういった診療ガイドラインの整備は,過剰診断・過剰治療の回避に大いに貢献していると思われる。

副腎腫瘍分野,特に内分泌非活性副腎腫瘍に関する診療指針に関しては,ガイドラインが発刊されたものの,まだまだ未整備な部分も多く,過剰診断・過剰治療の回避を達成できているとはいい難い。内分泌非活性副腎腫瘍のマネジメントに関しては,診断から治療まで,われわれ内分泌外科医にゆだねられる場面も多く,診療体系の確立に関して,主体的に取り組んでいくべきである。

【文 献】
 
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