理論と方法
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特集 計量歴史社会学
社会移動からみた近代都市東京の形成過程
―都市移住者の計量歴史社会学―
粒来 香
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1998 年 13 巻 1 号 p. 5-22

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抄録

 近代日本の都市移住に関しては、いわゆる「農家の次三男」説、すなわち農家の次三男が都市に流入し工業労働者階級を形成したとする説が今なお支配的である。けれども、この説には実証的にさまざまな問題があり、都市移住と都市諸階層の形成過程との関係については明らかにされていない点が少なくない。本稿では、60年東京SSM調査のデータをもちいて都市移住のありかたを計量的に分析し、戦間期と戦後期の2つの時期に焦点をあてて、近代都市としての東京の形成過程を明らかにする。
 都市移住には就学移動と就職移動の2つのルートが存在する。「農家の次三男」説は前者を無視した説であるということができる。戦間期には、上層労働者・下層労働者とも中核部分を形成したのは移住者であった。それに対して戦後期には、東京内部の各層が上層労働者の供給源となる一方で、移住者は下層労働者に集中した。こうした戦間期と戦後期の変化をもたらした要因としては、とくに学歴取得傾向における異同が重要である,戦間期には出身地による学歴格差が認められないが、戦後期には明らかな格差が生じており、これが職業キャリアのちがいに結びついたのである。

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© 1998 数理社会学会
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