抄録
H. サックスは1960年代半ばに、反復可能な現象の産出手続きの探究としての社会学という考え方を提出した。いわゆる「会話分析」の始まりである。本稿では、ここに構想されている社会学に対して一つの像を与えてみたい。第一に、この社会学は、P. ウィンチのいう意味での「概念的探究」にほかならない。あるいは、ヴィトゲンシュタインのいう意味での、概念の結合関係の「見通しのきいた記述」こころみにほかならない。第二に、常識的および社会学的な行為の説明が、行為そのものと同様に、概念の文法の適用として産出される規範的な現象であるのに対して、サックスの「手続きの探究」は、その概念の文法(規範構造)そのものの探究である。その意味で、それは、常識的な説明とも従来の社会学的な説明とも論理的身分を異にするものである。第三に、会話分析(もしくは相互行為分析)が経験的データの詳細な分析にもとづくものであるとしても、そのデータは、あくまでもウィンチのいう「概念の用法を思い起こさせる」ものであって、理論的仮説を「検証」するためのものではない。