理論と方法
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原著論文
他者配慮の意図せざる結果
—多様な相互配慮による2 × 2対称ゲームの利得構造シフト—
武藤 正義
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2007 年 22 巻 1 号 p. 71-86

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抄録

本稿の目的は、相互に配慮することの社会的な帰結をゲーム理論的に明らかにすることにある。扱う状況は2 × 2対称ゲーム(すなわち2人2選択肢対称ゲーム、全部で12個)に絞る。配慮の仕方は「利他性」と「平等性」によって定義される。利他主義、競争主義、平等主義など、典型的な13個の配慮の仕方をとりあげる。両行為者は同じ配慮の仕方をとるものとする。配慮はゲームの利得構造を主観的に変形する。この変形を分析した結果、たとえばつぎのことが明らかになった。(1)2 × 2対称ゲームでは、利他性と平等性を適当に変えることで、ほとんどの客観的状況をどんな主観的状況にもすることができる。(2)同じ配慮の仕方でも、パレート効率に照らして望ましい状況と望ましくない状況がある。たとえば反利他的かつ平等的な「負けず嫌い」は囚人のジレンマとチキンゲームで望ましくない。(3)パレート非効率を最も引き起こしやすい配慮の仕方は、競争主義と犠牲主義(12個中7個のゲーム)、ついで反平等主義(6個)である。一方、平等主義(2個)は平等だけでなく、パレート効率という点でも望ましい。利己主義と利他主義(1個)は、じつはパレート非効率を引き起こしにくい。なお、マクシミン・マクシマクス・功利主義はパレート非効率を引き起こさない。このように、2 × 2対称ゲームでのパレート非効率を引き起こしやすい配慮の仕方のランキングが明らかになった。以上の知見は友人関係や家族関係やボランティアなどの分析に役立つだろう。

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© 2007 数理社会学会
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