理論と方法
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シンポジウム 社会階層と東日本大震災
東日本大震災の被災から復興における「脆弱性」と「社会階層」
暮らしの面と心の平穏の面に焦点を当てて
麦倉 哲
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2013 年 28 巻 2 号 p. 269-288

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抄録

 東日本大震災の被災地の一つである岩手県大槌町の被災―復興状況について,脆弱性と階層性という観点から検討した.検討にあたっては,関係する各種資料や筆者が実施した仮設住宅調査結果をもとに分析した.被災地には,次の3つの次元の脆弱性と階層性がある.第一に,被災地東北の置かれた状況から,地域社会の経済指標の面,人口減少・高齢化という面,地区レベルでの公共圏の担い手などの点で,脆弱性を抱えていた.第二に,被災死者・行方不明者をみると高齢者が多く,特定の階層が避難において脆弱であった.第三に,被災存命者の間に,社会階層がみられることが明らかとなった.第三の点について,仮設住宅調査の結果を少し詳しく分析した.階層は多様であるので,筆者は,暮らし(物質・生計)面と,心の平穏(メンタル)面の2つの軸で分析した.その結果,被災前の暮らしのきびしさが,被災後にも影響を及ぼし,被災による生活への打撃があったために,暮らしのうえできびしくない層は,2割程度であった.また,心の平穏の面で,平穏の状態にあるのは,3分の1程度であった.二つの軸を組み合わせてみていくと,暮らしの面でも,心の平穏の面でも問題を抱えている層は5割を上回り,逆に,いずれの問題も意識していない層は1割程度であった.

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© 2013 数理社会学会
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