理論と方法
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特集 社会理論と社会的ジレンマ
自由と効率
─社会的ディレンマ研究の問題点─
永田 えり子
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1988 年 3 巻 1 号 p. 43-56

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抄録
 社会的ディレンマは原理的に解消可能だろうか。本稿はこの問題設定のもとで次の3点を主張する。(1)経験的に協力的社会状態を達成するのに役立つような要因を抽出することによって、社会的ディレンマを解消することはできない。経験的状況においては、社会的ディレンマの論理構造以外の要素を排除できないからである。社会的ディレンマを解消するには、社会的ディレンマを解消するような一般理論を発見しなくてはならない。(2)個人の選好を操作することによって社会的ディレンマを解消しようとすることは、社会的ディレンマの問題設定そのものを捨ててしまうことにほかならない。(3)社会的ディレンマとは、自由な個人による均衡社会状態よりもパレート効率的な社会状態が存在するような事態を指す。したがって、最終的な社会的ディレンマの解決とは、任意の初期条件からパレート的に劣っていないような社会状態を導出できるようなアルゴリズムを発見することであるといえよう。ところで、社会的ディレンマはセンのリベラル・パラドックスの下位類型としての位置を占める。センによれば自由とパレート効率性とは矛盾するものであり、両者を両立させるようなアルゴリズムは存在しない。このことから社会的ディレンマを解消するような一般理論は存在しない、と主張できる。
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© 1988 数理社会学会
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