日本ヘルスサポート学会年報
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医療介護レセプトを用いた高齢者の死亡パターンの分析
松田 晋哉村松 圭司藤本 賢治
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2022 年 7 巻 p. 31-39

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抄録

【目的】人生の最終段階における療養生活の質向上を図るための医療介護提供体制の在り方を考えるために、国内5広域自治体の医療・介護レセプトを収集し、それを個人単位で連結したデータベースを用いて、死亡症例について、死亡前24か月間の医療介護サービスの利用状況を可視化することを試みた。

【資料及び方法】分析に用いたのは国内5広域自治体の医療・介護レセプトである。レセプトデータを個人単位で連結し、このデータベースから65歳以上の死亡症例を抽出した。次に、死亡が発生した年月を起点(死亡月、経過月=0)としてその差を経過月として24か月前まで計算した(例えば、前月は-1)。上記で把握した死亡患者について、医科レセプトおよび介護レセプトを用いて経過月ごとに医療・介護サービスの利用状況及び傷病の状況を把握した。

【結果および考察】本分析により以下のことが明らかとなった。まず、分析結果から死亡に至る傷病のパターンとして、心不全や腎不全といった循環器系の不全症状の進行と肺炎・誤嚥性肺炎の発生が重要な契機となっていることが明らかとなった。次に、人生の最終段階においては、気分障害の有病率が10%程度あり、メンタルヘルス面での対応の必要性が示唆された。第三に、死亡前24か月間の有病率を年齢階級別にみると年齢の高い群では心不全、認知症の有病率が増加する一方で、悪性腫瘍の有病率が低下していた。悪性腫瘍診療領域では我が国においてもホスピス等の長い経験があるため、人生の最終段階におけるケアの在り方に関する議論が他領域よりは進んでいる。他方、年齢の高い群ではがんが直接的な死因になるよりは、肺炎や心不全などの死因としての重要性が増大することが示された。また、年齢とともに認知症にり患している対象者が増加しており、今後ACPを実践していく上で、代理人の選定問題を生じうる。したがって、今後、ACPを含めて人生の最終段階における医療の在り方を考える上で重要な検討課題であると考えられた。

【結語】本分析の結果、死亡に至る傷病のパターンとして、心不全や腎不全といった循環器系の不全症状の進行と肺炎・誤嚥性肺炎の発生が重要な契機となっていることが示された。このような状態の兆候が出始める前後の時期が、ACPに関連するプロセスを本人や家族を含めた関係者と始めるタイミングであると考えられる。また、こうした死亡に至る傷病のパターンについて広く国民に情報提供することが、国民が自らの人生の最終段階における生き方を決めることを可能にするために必要であると考えられる。

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