理論と方法
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特集 権力現象:権力を維持し、内蔵し、産出する制度
実体としての権力は実在するか
盛山 和夫
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1988 年 3 巻 2 号 p. 2_85-2_100

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抄録

 権力という概念は、われわれが日常的に社会的世界を理解する上できわめて重要な役割を果たしている。そこでは、権力は、世界に作用を及ぼすところの実体であり、独立した要因であると概念化されている。「権力の大きさ」とか「権力の大小」といった概念は、実体としての権力を前提にしている。
 しかしながら、このような実体としての権力の実在は疑わしい。ニュートン力学におけるような物理的な力は実在するかも知れないが、社会学理論においてそれと同等の役割を果たすべき実体としての権力は、存在しないと考えた方が、これまでの権力理論の混乱と失敗をよりよく説明することが出来る。ここで、実体としての権力と、被説明項としての権力現象とを区別することが重要である。後者は、実際に観測され、説明を求められているさまざまな権力現象である。それに対して、前者はそうした権力現象を説明するために、日常的な社会理解において考え出された説明要因である。しかも、これは説明要因として、厳密な検討に耐えうるものではなく、結局のところ幻想的な要因であると考えられる。
 したがって、ありうべき権力理論においては、もはや説明要因としての権力概念を保持することはできない。むしろ、さまざまな権力現象を現象に即して説明していく試みの蓄積が必要である。

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© 1988 数理社会学会
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