理論と方法
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特集 社会ネットワーク分析の新展開
アート・フェスティバルは地域をどのように表象し何を可視化するのか:
島連想イメージのネットワーク分析
金光 淳
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2018 年 33 巻 1 号 p. 114-131

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抄録

 近年日本各地で開催されているアート・フェスティバルはアートによる「観光のまなざし」を地域に内省化することで,観光客の側にも住民の側にも新たな地域表象を結像させている可能性がある.それはどのように地域イメージの形成に貢献しているのか,またそれは地域社会の問題をどのように可視化しているのかを瀬戸内国際芸術祭で探った.小豆島と豊島で行われた島ブランド・イメージ連想調査データのネットワーク分析は,1)産業が盛んで伝統的な地域イメージが形成されている小豆島では,アートはそれにほとんど貢献しておらず,産物,観光とメディア・コンテンツの連想イメージが前面化している;2)これとは対照的に産業が衰退し確固たる地域イメージが形成されていない豊島においては,地域表象形成におけるアートの役割は大きい.アート・フェスティバルは感覚的反応,他地域の連想を伴ないつつ,美しい瀬戸内の風景に助けられ豊かな美的空間を形成するのに貢献している;3)豊島では産業廃棄物問題は大多数の観光客には見えていないものの,地域の記憶を伝承するアート作品やシンボリックな豊島美術館を通してこの問題が観光客の一部にも連想されており,アート・フェスティバルは観光客の産業廃棄物問題の可視化にある程度貢献している,ことが明らかになった.これらの知見を基に瀬戸内国際芸術祭の課題が論じられた.

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© 2018 数理社会学会
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