地域生活にはさまざまな共有物がかかわっており、その性質がゆえに、「社会的ジレンマ」を典型とする「意図せざる結果」をともなう。入会地もそのような共有物の特殊例であるが、近代化とともにその制御問題は変質を経てきた。もともと入会をめぐる社会的ジレンマは、基本的に集団規制によって処理可能であった。それを支えていたのは土地を守っていくべき財産とみる農民の価値観である。ところが近代化の影響のもとに土地を商品とみる価値観がムラに浸透し、コンフリクトをともなって「意図せざる結果」を複雑化しながら、入会地の村外流出を促進することになる。このような流れは時間非均質マルコフ連鎖によって定式化できる。そしてそのモデルの中で、危機感をつのらせた農民がある時点で価値観を再度転換した場合に、入会地を守ることができるかどうかを調べた。その結果、地域の置かれた状況や転換時期に大きく依存するものの、入会地の保全が不可能ではないことが確かめられた。これは「意図せざる結果」の処理法として、選好の転換を促す状況変革的な方策の有効性を示唆するものである。