2024 年 56 巻 6 号 p. 438-440
抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎の2歳男児例を経験した.先行する感染や発熱がなく左側のみのけいれん発作を繰り返し,軽度の片麻痺と歩行障害が出現した.その後,舌で口周囲をなめるような常同的な運動が出現し,第11病日に易攻撃性と夜間せん妄もみられた.一方で日中には目立った意識障害はなく頭部MRI検査でも異常所見を認めなかったため,てんかん発作として抗てんかん薬の投与がおこなわれた.第18病日にけいれんが重積し,それ以降持続的な意識障害を来したため,methylprednisolone pulse療法と免疫グロブリン大量療法,thyrotropin-releasing hormon療法を施行した.片麻痺は改善し運動面で後遺症は残らなかったが,高次脳機能障害を来した.発症から2か月後に抗NMDA受容体抗体陽性が判明し確定診断に至った.抗NMDA受容体脳炎の成人例では精神症状が先行することが多いが,小児例ではけいれんや不随意運動が先行症状として多いとされている.本症例は診断に苦慮したものの,後方視的には小児の抗NMDA受容体脳炎の典型的な特徴を有しており,早期診断・治療のため小児例の特徴を正しく知っておくことの重要性を改めて示す症例であった.また近年自己抗体に依存しない臨床的診断基準が提唱されており,本症例のような小児例に適応した場合も早期診断に有用であると考えられた.