脳と発達
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最新号
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巻頭言
総説
  • 宮原 弘明
    2025 年57 巻5 号 p. 337-342
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル フリー

     私は,小児科医から小児神経病理医に転向したことで,臨床と病理の両方の角度から小児神経疾患に取り組む独自の視点が身につき,仕事の幅が広がり,さまざまな分野の専門家との交流も深まりました.今回はこの経験をもとに,この立ち位置から生まれる可能性と課題,そして将来の展望について論じます.私が神経病理医となって始めたことの一つとして,過去に病理解剖が行われた小児神経疾患症例の病理標本を再生し病理解剖情報をデータベース化する取り組みがあります.この取り組みは過去の希少疾患の標本を再生し,現代の技術で再評価することで新たな知見を得られる可能性を秘めています.また,法医学講座と連携し乳幼児の予期せぬ突然死(sudden unexpected death in infancy;SUDI)の病態解明にも取り組んでおり,延髄下オリーブ核のグリア瘢痕や不整脈関連遺伝子の病的バリアントなどの所見を見出しています.非侵襲性出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing;NIPT)の普及に伴う倫理的・社会的問題にも注目しており,NIPTの結果に直面している家族へ適切な情報提供を行うことの重要性や,NIPTの転帰として妊娠中絶に至った胎児の病理学的検証の必要性について感じています.医療者における他分野への転身は単なるキャリアチェンジではなく,時に臨床と基礎研究の架け橋となり,小児神経疾患の理解を深め,新たな視点からの診断法や治療法の開発につながる可能性を秘めていると考えています.

原著論文
  • 髙井 あかり, 板垣 正樹, 弓削 マリ子, 山田 夕貴, 歴舎 望, 山田(西村) 知里, 中西 知奈美, 戸澤 雄紀, 手良向 聡, 森 ...
    2025 年57 巻5 号 p. 343-348
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
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     【目的】自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD)患者における幼児期の感覚処理障害(sensory processing disorder;SPD)とASD重症度・対人コミュニケーション障害との関係を明らかにする.【方法】ASD重症度・対人コミュニケーション障害は日本の質問紙である親面接式自閉スペクトラム症評定尺度テキスト改訂版(PARS-TR;PARS),SPD重症度は日本版感覚プロファイル(Sensory ProfileTM;SP)にて評価した.PARS短縮版とSPの相関性をSpearmanの順位相関係数を調べることにより検討した.【結果】ASD患児26人における,PARS短縮版とSP総得点は中程度の正の相関を認めた.感覚の四象限(感覚過敏・感覚回避・低登録(鈍麻)・感覚探求)では,感覚過敏,感覚回避,感覚探求の三象限で正の相関を認めた.感覚モダリティ別の評価では,聴覚,視覚,前庭覚,触覚,複合感覚と複数のモダリティで正の相関を認め,対人コミュニケーションに限った得点でも同様であった.【結論】ASD患児の幼児期のSPD重症度はPARS短縮版と正の相関がある.PARS短縮版高得点の児では,SPD併存の可能性も念頭に置く必要がある.

  • 野﨑 真紀, 福水 道郎, 林 雅晴, 星野 恭子
    2025 年57 巻5 号 p. 349-353
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

     【目的】メラトニン顆粒小児用(以降メラトニン顆粒)は,臨床試験が実施された「6~15歳の神経発達症」以外の症例へも使用されているという実態がある.そこでメラトニン顆粒発売後のレセプトデータを用いて,使用状況を調査した.【方法】2020年6月から2022年9月におけるDiagnosis Procedure Combination(DPC)470施設,健康保険組合144組合をデータベースとし,メラトニン顆粒を処方された患者を対象に処方件数,年齢,疾患名,処方量を集計,検討した.【結果】患者総数は8,235人で男性4,533人,女性3,702人,年齢中央値は11歳であった.6~15歳は75.6%(6,222人)で,24.4%(2,013人)が安全性・有効性未確認年齢層であった.神経発達症カテゴリー別の患者数は多い順に自閉スペクトラム症4,064人(49.4%),ADHD 2,331人(28.3%),知的能力障害群938人(11.4%),運動症群508人(6.2%),コミュニケーション症群431人(5.2%),限局性学習症192人(2.3%),他の神経発達症1,313人(15.9%),小児神経発達症以外1,536人(18.7%)であった.年齢最小値0歳,最大値68歳,処方量は最小値0.5mg以下,最大値7~9mgであった.【考察】メラトニン顆粒は「6~15歳の神経発達症」以外へも多く処方されていた.不眠症症状の変化や違いによる有効性の検討もできれば,より細かい推奨用法用量を提案できると考える.

症例報告
  • 丸谷 健太朗, 赤峰 哲, 上野 雄司, 川上 沙織, 平良 遼志, 鳥尾 倫子, 鉄原 健一, 倉岡 彩子, チョン ピンフィー, 酒井 ...
    2025 年57 巻5 号 p. 354-358
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

     抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎は,若年女性に発症する卵巣奇形腫関連傍腫瘍性脳炎として2007年に提唱された.近年小児例の報告数も増加しており,治療可能な自己免疫性脳炎として診断方法,治療戦略の早期確立が求められている.抗NMDA受容体脳炎の小児例において自律神経症状に対してペースメーカ植込み術を施行した報告は少ない.今回,我々は自律神経症状による高度徐脈に対して緊急ペースメーカ植込み術を施行した抗NMDA受容体脳炎の9歳女児例を経験した.本症例が最も低年齢での報告である.精神症状,意識障害で発症し髄液細胞増多から自己免疫性脳炎と診断して速やかに免疫療法を開始したが,8病日から中枢性低換気により集中治療管理を必要とした.9病日に卵巣腫瘍核出術を施行し10病日に髄液中抗NMDA受容体抗体陽性が判明し,抗NMDA受容体脳炎と確定診断した.自律神経症状による徐脈や房室ブロックが出現し13病日から単純血漿交換療法を施行したが,高度徐脈・血圧低下により心肺蘇生を繰り返し行ったため,救命を目的として17病日に緊急ペースメーカ植込み術を施行した.早期に診断・治療を開始できた小児の症例であっても自律神経症状による致命的な合併症を引き起こすリスクがあり,慎重な管理・対応が必要と考えられた.

  • ~伊藤白斑を合併した例の経過と文献的考察~
    石綿 翔, 小笠原 啓, 市川 弘隆, 羽田 謙太郎, 知識 美奈, 前田 創, 金井 祐二, 佐藤 真紀, 郷 勇人, 山田 美香, 野寺 ...
    2025 年57 巻5 号 p. 359-363
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
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    電子付録

     片側巨脳症は先天性の脳形成障害で,ほとんどの症例で難治性てんかんを認める.内科的治療に抵抗性であることが多いため,早期の脳外科治療が推奨されている.今回,我々は伊藤白斑を合併した片側巨脳症に対して生後3か月に半球離断術が実施されたが発作の改善が得られず,その後水頭症を呈した症例を経験した.本症例のように乳児期早期に半球離断術が実施された片側巨脳症患者の報告は,症例報告にとどまっている.そこでこれまでの文献をレビューし,片側巨脳症に対する半球離断術の術後合併症,発作予後,発達予後を考察した.その結果,生後5か月未満で手術が実施された例は,5か月以上で手術が実施された例に比べて片側巨脳症以外の先天異常の合併は多いが,術後合併症は少なく,発作予後,発達予後は有意差がなかった.以上より,片側巨脳症に対する半球離断術は,5か月未満でも術後の合併症の割合を高めないことが示唆された.また,本症例では患側・非患側脳それぞれに起始するてんかん発作のうち,臨床発作を示す右半球の半球離断術による緩和を期待したが,てんかん発作は軽減しなかった.この理由として,神経皮膚症候群である伊藤白斑が原因である可能性があると考え,神経皮膚症候群の合併の有無でも術後合併症,発作予後,発達予後についての検討を行った.今回の検討では,神経皮膚症候群の合併の有無では,術後合併症や発作予後,発達予後に有意差は認めなかった.

  • 高橋 吾朗, 高橋 孝雄, 高橋 努
    2025 年57 巻5 号 p. 364-367
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
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     Dravet症候群に対してfenfluramine(FFA)が処方された3例中3例で,食欲減退と下痢および体重減少,さらに患者と介護者のQOL低下をきたし,FFAの減量・中断が必要となった.症例1は12歳の女児で,FFA(0.2mg/kg/日)を開始後1か月で下痢と不機嫌に伴い患者と両親のQOLが著しく低下したため0.13mg/kg/日に減量した.症例2は5歳10か月の男児で,FFA(0.1mg/kg/日)を開始後,下痢と食欲減退により2か月間で体重が13%減少し,FFAを中断した.症例3は2歳4か月の女児で,FFAを0.1mg/kg/日で開始し,0.3mg/kg/日まで増量したところ,下痢と食欲減退により2か月間で体重が9.1%減少し,FFAを中断した.FFAに特異的な副作用である肺高血圧症,弁膜症に対しては厳しく注意喚起がなされているが,それらが実臨床で問題になることは極めて稀である.一方,高頻度に認められる食欲減退,下痢,体重減少については十分な配慮が必要となるが,それらについて検討した報告はほとんどない.今回報告するいずれの症例においても,発作抑制効果が良好であったため,保護者はFFAの減量・中断に消極的であった.薬剤抵抗性発作に有効であるFFAの中止や減量には高度な臨床的判断が要求されるが,その際,高頻度に認められる消化器系副作用についても一層の注意が向けられるべきであろう.

  • 安藤 正人, 久保田 一生, 門脇 紗織, 門脇 朋範, 川本 美奈子, 川本 典生, 望月 清文, 金子 揚, 岡本 遥, 田中 大貴, ...
    2025 年57 巻5 号 p. 368-373
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

     MOG抗体関連疾患(myelin oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease;MOGAD)は,比較的稀な中枢神経系炎症性脱髄疾患である.今回,3か月の短期間に5例の小児MOGAD症例を経験したため報告する.症例1は10歳男児,急速に進行する両側視力低下を主訴に受診した.頭部造影MRIで両側視神経周囲の造影増強効果を認めた.頭蓋内圧は著明高値であった.視神経炎,視神経周囲炎,特発性頭蓋内圧亢進症などが鑑別に挙がった.症例2は4歳男児,不明熱の精査中に意識障害が出現し,急性散在性脳脊髄炎の臨床像を呈した.症例3は4歳女児,不明熱の精査中に頭部造影MRIで両側視神経炎,多発脳実質病変および軟膜の造影増強効果を認め,髄液検査で細胞数上昇を認めた.症例4および症例5は視神経炎の臨床像を呈した.精査の結果,いずれの症例もMOGADと診断した.5例中2例に気道感染症が先行し,1例には感染症の可能性がある非特異的な前駆症状を認めた.自験例はいずれも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が5類感染症に引き下げられた後に発症しており,人々の行動様式の変化によるウイルスが伝播しやすい社会的状況が多発に影響した可能性がある.軽症例や非典型例を含めたMOGADの真の疫学情報については,疾患認知度向上およびMOG抗体検査の普及により今後明らかになる可能性がある.

  • 大萱 俊介, 隈井 すみれ, 細川 洋輔, 倉橋 直子, 山田 桂太郎, 三浦 清邦, 野々部 典枝, 丸山 幸一
    2025 年57 巻5 号 p. 374-376
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
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     Cyclopentolate塩酸塩は,屈折異常や斜視,弱視の評価の際に調節麻痺薬として用いられる抗コリン薬であり,眠気や充血,幻覚などの副作用が知られている.今回我々は,cyclopentolate塩酸塩の点眼後に,まれな副作用であるけいれん性発作を起こした1例を経験した.症例は18トリソミーの基礎疾患を持つ5歳女児であり,先天性心疾患や肝芽腫,熱性けいれんの既往がある.弱視の経過観察のため眼科を受診した際,1% cyclopentolate塩酸塩点眼液を3回点眼され,その約30分後に顔面や四肢の焦点起始間代発作を生じた.diazepam坐薬ではけいれん性発作は抑制されず,phenobarbitalの静注で抑制された.第6病日に後遺症なく退院した.乳幼児やけいれん素因のある児にcyclopentolate塩酸塩を投与する場合は,けいれん性発作が出現する可能性を念頭において診療を行う必要がある.

  • 荒巻 良子, 福岡 正隆, 汐田 航平, 石岡 梨紗子, 松原 康平, 山田 直紀, 堀田 貴大, 奥野 英雄, 温井 めぐみ, 井上 岳司 ...
    2025 年57 巻5 号 p. 377-381
    発行日: 2025/09/01
    公開日: 2025/10/21
    ジャーナル 認証あり

     ヒトパレコウイルス(human parechovirus;HPeV)感染症では,新生児・乳児期に敗血症様症状で発症し,多臓器障害,中枢神経症状などをきたし重症化する症例が多く報告されており,頭部MRIで大脳白質を中心とした信号異常を認め,急性脳炎と診断される症例も散見される.今回我々は新生児期の発熱で医療機関を受診し,髄液検査上,細胞数の上昇はなく,FilmArray®髄膜炎・脳炎パネル(以下,FilmArray®)でHPeVが検出された症例を2例経験した.うち1例では後にreal-time PCRで髄液検体からHPeV-3を検出した.両症例とも,髄液ネオプテリンの上昇を認め,頭部MRIで大脳白質や脳梁に微細な病変がみられたが,けいれんなどの発作症状や意識障害を認めず,神経学的異常所見も認めなかった.退院時点でも後遺障害を認めず,軽症型HPeV脳炎であったと考えた.今回経験したFilmArray®で診断された軽症例を含むHPeV脳炎の疫学調査と,そのような症例の長期的発達予後を検討する必要があると考える.

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