人工知能(AI)は驚異的なスピードで進化しており,医療分野への浸透も急速に進んでいる.医用画像診断の分野でも,近年AIの中核技術であるディープラーニング(深層学習)の登場により,医師の画像診断を支援するいわゆるコンピュータ支援診断(computer-aided diagnosis;CAD)システムが,AI-CADとして性能が大幅に向上した.そして,医療現場への導入も進み,保険点数を得ている商品もある.このようなAIは「識別AI」(認識AI)に分類されるが,最近の「生成AI」により,AI-CADもさらに人間の医師に近い生成AI-CADへと進化していくであろう.本総説では,医療におけるAI活用の現状を概観し,その牽引役として注目されている技術であるディープラーニングと生成AI(大規模言語モデル,トランスフォーマ,ChatGPT,画像生成AI,基盤モデルなど)の基礎を説明し,それらの技術の画像診断支援AIへの導入の現状と課題などについて解説する.
【目的】ひらがな読み検査は,発達性読み書き障害の診断と治療に不可欠である.その一方で,現行の検査では低学年において読字困難の過剰判定をもたらす危険性がある.本研究では,小学校1,2年生における同検査の大規模データを収集し,実態解明,過剰判定の検証,ならびに新たな基準値の探索と現行基準との比較検討を目的とした.【方法】公立小学校の1年生511名,2年生422名にひらがな読み検査を実施し,音読時間を現行基準と比較した.次に,現行基準に基づく,各学年の異常判定率を検証した.さらに,3年生までの縦断追跡データから新基準値を作成し,1,2年生の異常判定率を検証するとともに,縦断追跡経過を現行基準と比較した.【結果】1,2年生の音読時間は現行基準よりも大幅に長く,現行基準に基づく異常判定率は1年生で47.0%,2年生で30.3%に達した.新基準は,現行基準よりも大幅に寛容な値となり,異常判定率は両学年で7%前後となった.縦断追跡経過の比較では,現行基準下で対象児の半数近くが読字困難に分類されたのに対し,新基準下では約15%に低下し,過剰判定の改善が示された.【結論】ひらがな読み検査の現行基準は,1,2年生の実態よりも厳格であり,読字困難を過剰判定する危険性が極めて高いことが示された.新基準は,医学診断および教育的介入の両面でより適切と考えられ,今後は学年基準値の修正を進めていく必要がある.
7歳女児が歩容異常を主訴に受診し,遠位筋優位の筋力低下,両側アキレス腱反射減弱,末梢優位の感覚障害を認めた.脊髄magnetic resonance(MR)neurographyは正常であったが正中神経の伝導障害を認めた.末梢神経障害を疑い,遺伝子検査ではmitofusin 2(MFN2)遺伝子バリアント(c.718T>G,p.F240V)を認め,Charcot-Marie-Tooth(CMT)2A型と診断した.理学療法を継続したが症状は緩徐に進行し,10歳4か月時には独歩は困難となり,脊髄MR neurographyではL2~5の神経根肥大を認めた.小児のCMT2A型では初期には脊髄神経根の形態異常を認めず,本症例のように症状の進行と共に神経根の肥大を認めることがあり,疾患進行性評価に脊髄MR neurographyが有用である可能性が考えられた.
Pallister-Killian症候群(PKS)は,知的障害・てんかん・運動障害・横隔膜ヘルニアなど多臓器の奇形を伴う孤発性の先天異常症候群で,12番染色体短腕(12p)のモザイク状テトラソミーにより起こる.急性胃軸捻転は稀だが致命的な消化器疾患で,胃を支持する靱帯の異常や横隔膜ヘルニアに続発することが多い.我々はPKSの女性で成人期にBochdalek孔ヘルニアを発症し,その経過中に胃軸捻転を呈した症例を経験したので報告する.患者は出生時から発達の遅れがあり11歳でPKSと診断され,13歳で当施設に入所した.33歳時に慢性のBochdalek孔ヘルニアと診断された.36歳時に急性の上腹部の膨満と循環血液量減少性ショックを呈した.経過中嘔吐はなく経鼻胃管は挿入不可能であった.患者は胸腹部X線と腹部単純CTで急性胃軸捻転と診断された.動脈血液ガス検査では重症アシドーシスと高カリウム血症を認め,胃軸捻転による腹部コンパートメント症候群が疑われた.緊急試験開腹手術が行われたが,拡張した胃を減圧切開術中に心室細動が出現した.心肺蘇生が試みられたが,蘇生には至らなかった.PKS等の染色体異常症患者の急性の上腹部膨満では,胃軸捻転を考慮する.胃軸捻転は急性の経過を辿るため迅速な対処を要する.知的障害を伴う先天性疾患患者での横隔膜ヘルニアは,無症状に見えても外科的治療を積極的に考慮する必要がある.
抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎の2歳男児例を経験した.先行する感染や発熱がなく左側のみのけいれん発作を繰り返し,軽度の片麻痺と歩行障害が出現した.その後,舌で口周囲をなめるような常同的な運動が出現し,第11病日に易攻撃性と夜間せん妄もみられた.一方で日中には目立った意識障害はなく頭部MRI検査でも異常所見を認めなかったため,てんかん発作として抗てんかん薬の投与がおこなわれた.第18病日にけいれんが重積し,それ以降持続的な意識障害を来したため,methylprednisolone pulse療法と免疫グロブリン大量療法,thyrotropin-releasing hormon療法を施行した.片麻痺は改善し運動面で後遺症は残らなかったが,高次脳機能障害を来した.発症から2か月後に抗NMDA受容体抗体陽性が判明し確定診断に至った.抗NMDA受容体脳炎の成人例では精神症状が先行することが多いが,小児例ではけいれんや不随意運動が先行症状として多いとされている.本症例は診断に苦慮したものの,後方視的には小児の抗NMDA受容体脳炎の典型的な特徴を有しており,早期診断・治療のため小児例の特徴を正しく知っておくことの重要性を改めて示す症例であった.また近年自己抗体に依存しない臨床的診断基準が提唱されており,本症例のような小児例に適応した場合も早期診断に有用であると考えられた.
ADHDと自閉スペクトラム症で多剤併用中の9歳男児が,methylphenidate徐放剤の服薬中断後に挺舌がやめられなくなり,下顎の不随意運動も出現して受診した.症状は自然軽快したが,過去にも同様のエピソードが2回あり,既報からrisperidone併用中のmethylphenidate徐放剤服薬中断によるジストニアと診断した.ADHD治療薬と抗精神病薬の併用時の薬剤変更には注意が必要である.
新生児期には無症状であったが乳児期に運動発達遅滞で発症しLeigh脳症様の臨床経過を呈したモリブデン補酵素欠損症A型(molybdenum cofactor deficiency type A;MoCD-A)を経験した.一般に認めるとされる低尿酸血症や血清アミノ酸(タウリン,シスチン等)の異常は認めず全ゲノムシーケンスでMOCS1遺伝子の既知ホモ接合型バリアント(NM_001358530.2 : c.949C>T[p.Arg317Cys])が同定され,MoCD-Aの診断に至った.Leigh脳症様の臨床所見を示す症例でも本疾患の可能性を検討する必要があると考えられた.
大田原俊輔は1930年2月に岡山県に生まれ,1956年に岡山大学を卒業した.1957年に岡山大学医学部小児科で小児てんかんの研究を開始し,日本で初めて16チャンネル脳波計を臨床に導入した.1979年に岡山大学医学部附属脳代謝研究施設発達神経科学部門教授,後に施設長に就任した.1987年に岡山大学医学部附属病院に診療科として小児神経科を独立させ,1992年に岡山大学医学部小児神経学講座を開設した.1974年に「サプレッション・バーストを伴う早期乳児てんかん性脳症(大田原症候群)」の原型となる病態概念を発表し,1976年に新しい疾患単位として確立した.同時に「年齢依存性てんかん性脳症」の概念を提唱し,現在の発達性てんかん性脳症の理解へと発展する道が開かれた.1995年に岡山大学を退官した後も精力的に活動していたが,2013年3月に83歳で永眠した.