脳と発達
Online ISSN : 1884-7668
Print ISSN : 0029-0831
ISSN-L : 0029-0831
最新号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
巻頭言
特集・第65回日本小児神経学会学術集会
<シンポジウム1:マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群の診療体制を考える>
  • 山本 俊至, 清水 健司
    2024 年 56 巻 4 号 p. 251
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー
  • 清水 健司
    2024 年 56 巻 4 号 p. 252-258
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     染色体異常症の分類においては,最初に染色体分染法により同定された古典的染色体異常症の分類があり,臨床的にも認識可能な数的異常や構造異常がこれにあたる.これに比較して,G分染法では同定困難な数百Kbから数Mbのサイズにおける微細欠失・重複により引き起こされる疾患は,染色体微細構造異常症候群とよばれる.1990年代に普及した領域特異的FISH法は認識可能な微細欠失症候群の同定を可能にし,2000年代以降のマイクロアレイ染色体検査の普及は,すでに同定されていた微細欠失症候群のカウンターパートとしての共通領域の微細重複症候群や,これまで表現型のみでは分類が困難であった染色体中間部を中心としたユニークな微細重複・欠失の同定により,ゲノム網羅的なコピー数変化の認識につながった.またこれらの微細構造異常においては,臨床的認識が困難で浸透率が不完全である場合や不均衡型転座などの染色体再構成に起因している場合など,診断後の健康管理や遺伝カウンセリングにおけるピットフォールが存在するため,臨床遺伝分野における成熟した対応が重要である.これらのことから,各微細構造異常症候群における今後の臨床情報蓄積や提供体制,社会福祉資源のサポートなど包括的な体制整備が必要不可欠である.

  • 粟屋 智就
    2024 年 56 巻 4 号 p. 259-265
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     2021年10月にマイクロアレイ染色体検査(CGH法,chromosome microarray testing or analysis;CMA)による染色体構造変異解析が保険適用となった.CMAでは,ガラス基板上に多数のDNAプローブを配置し,酵素学的に細断した患者ゲノムと対照ゲノムとが反応した量を比較することで,特定の染色体領域の量的変化(コピー数変化,copy number variation;CNV)や,ヘテロ接合性の喪失(loss of heterozygosity;LOH)を推定する.従来は遺伝専門家が研究として実施してきたため,検査依頼者とデータ解析者とが情報を突き合わせながら臨床的意義を検討してきた.一方,受託検査機関で実施するのはあくまで検査部分で,報告書には領域情報のみしか記載されない.結果の解釈,つまり診断は検査依頼者が自ら行う必要がある.CMAではひとりあたり複数の変化領域が検出されることも少なくなく,臨床的意義の解釈は,特定の症候群に該当しない場合にはなかなか難しい.本稿では,CMAの原理と実験手順について示し,診断のピットフォールについて考えるとともに,検出された領域の臨床的意義付けについて概説する.臨床検査としてCMAを利用出来るようになった今,検査の実施や限界,必要な説明事項,結果開示における留意点等について,改めて確認したい.

  • 松本 歩, 永田 浩一, 山形 崇倫
    2024 年 56 巻 4 号 p. 266-269
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder;ASD),知的障害(intellectual disability;ID)と先天異常症候群,遺伝子隣接症候群についてマイクロアレイ染色体検査により遺伝学的基盤を明らかにすることを目的に解析を実施した.足場蛋白に関連する遺伝子として,ID,脳梁低形成に関与するLIN7A,ASDと関連するLIN7B,細胞シグナルの異常にかかわる遺伝子として,IDと母斑症にかかわるPIK3C3などを報告した.代謝,分解に関連する異常として,ASD例のMAOAMAOBの欠失例は病態の理解により治療薬の選択や,出生前診断可能となった.保険適応になったマイクロアレイ染色体検査においてもコピー数変化(copy number variation;CNV)のデータ集積,機能解析を行うことで新たな疾患や遺伝子の機能が明らかにできると考えられる.この積み重ねにより患者さんや社会に還元されることが期待される.

  • 今泉 太一, 山本 俊至
    2024 年 56 巻 4 号 p. 270-272
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     2021年10月よりマイクロアレイ染色体検査が保険収載され,一般診療レベルで実施できるようになったが,それぞれの疾患の発生頻度などは不明のままである.患者数の把握は医療や福祉の手立てを考える上で最も基礎的で重要なデータとなるため,日本小児神経学会会員を対象としたWebアンケートと研究班メンバーの所属施設における調査を実施した.得られた患者数情報はDECIPHERデータベースに登録されている患者数と概ね比例しており,発生頻度に差がないことが明らかになった.しかしながら,把握できた総数が少なく,1例も把握できなかった症候群もあった.そのため,そのような希少な疾患の患者数を把握するためにはさらに調査を継続する必要がある.本研究の成果を生かして,指定難病などになっていない染色体微細構造異常症候群の当事者団体の立ち上げサポートや小児期から成年期まで切れ目のない移行医療体制の構築を行う予定である.

  • 竹内 千仙
    2024 年 56 巻 4 号 p. 273-276
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     小児期発症慢性疾患患者に対する成人移行支援のあり方については,すでにこれまでに様々に検討されているが,世界で共通の課題として医療体制整備に対する財政支援や人的リソースが乏しいこと,転科・転院後の信頼関係の構築が必ずしも容易ではないことなどが挙げられ,移行介入そのものの有効性を判定する質指標に乏しいことも指摘されている.

     マイクロアレイ染色体検査で明らかになる染色体微細構造異常症候群は,知的・運動発達の遅れ,知的障害,発達障害,自閉スペクトラム症などを持つことが多く,自律的な意思決定と社会的自立が困難であることが少なくない.また,症状や重症度に個人差が大きく画一的な移行プロセスの採用は困難である.移行への障壁は複数あるが,最も普遍的な障壁は「人間関係」で,成人診療科における新たな人間関係を構築することの困難さを意味する.しかし同時に,移行における最も重要な要素とは,小児科と成人診療科の適切な協働(パートナーシップ)でもある.移行期医療においては,医療の継続そのものに主眼を置くべきであり,より良い移行期医療の実現のためには医療の構造的違いを理解した上で,患者・家族と医療者との円滑コミュニケーションの推進と,移行後の成人診療科における信頼関係の構築が何よりも重要であると考える.

  • 山本 俊至
    2024 年 56 巻 4 号 p. 277-279
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     2021年にマイクロアレイ染色体検査が保険適用になった.この検査を実施する場合には,59の適用疾患のいづれかの疑い病名がなければならない.ただし,それらの疾患のほとんどは指定難病でも小児慢性特定疾病でもない.そのため日本語による疾患情報に乏しく,いざ診断がついたとしても患者家族に提供できる情報が限られている.我々はマイクロアレイ染色体検査で診断がつく疾患の疾患概要・診断基準と一般向け解説をまとめ,主治医はもちろん,患者家族もスムーズにわかりやすい情報に辿り着くことができることを目指している.しかしながら,その多くは希少であり,主治医の多くは過去に診療経験がない疾患ばかりである.そのため診断確定後は,患者家族はむしろ当事者同士の結びつきを求めていることが多い.昨今のオンラインツールの普及により,希少疾患であってもネット越しに交流することができるようになった.ピアカウンセリングとしての家族会支援の重要性について概説する.

<シンポジウム13:小児免疫性神経疾患の臨床と病態update>
  • 佐久間 啓
    2024 年 56 巻 4 号 p. 280-284
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     抗神経抗体の証明は免疫性神経疾患の診断に不可欠だが,自己免疫性脳炎が疑われる症例に対して全ての抗神経抗体を検索することは現実的に難しい.そこで自己免疫性脳炎を臨床的特徴によっていくつかのグループに分けることで,検索すべき自己抗体を絞り込むという方法を提唱する.具体的には精神病症状・大脳辺縁系症状・運動異常症・てんかん発作・小脳性失調・髄膜脳炎/脳脊髄炎という六つのカテゴリーに分類し,それぞれ頻度の高い原因疾患を念頭に抗体の解析を進める.精神病症状・運動異常症を伴う場合は,まずN-methyl-D-aspartate receptor(NMDAR)脳炎を中心に鑑別を進め,髄膜脳炎ではmyelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体とglial fibrillary acidic protein(GFAP)抗体の可能性を念頭におく.一方けいれん発作(他の症状を伴わない場合)・小脳性失調の場合,自己抗体以外の原因による疾患が多い.このような診断的アプローチはコンセンサスが得られたものではないが,自己免疫性脳炎の鑑別診断を効率化することに役立つと期待される.さらに自己免疫性脳炎の臨床診断基準を用いれば,抗体検査の結果に依存することなく臨床診断を下すことが可能であり,早期の治療判断に有用である.

  • 星野 愛
    2024 年 56 巻 4 号 p. 285-289
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     抗MOG抗体関連疾患(myeline oligodendrocyte glycoprotein antibody-associated disease;MOGAD)は髄鞘のミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白の自己抗体により発症する中枢性炎症性脱髄疾患である.視神経炎,急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis;ADEM),自己免疫性脳炎,横断性脊髄炎,視神経脊髄炎スペクトラム障害などの多彩な臨床型に抗MOG抗体が関連することが知られている.また,2023年には国際MOGADパネルより国際診断基準が提唱されたことから着目されている.診断はcell based assay(CBA)法による抗MOG抗体陽性が必須であるが,特徴的な画像所見の評価や,他の脱髄性疾患との鑑別や治療方針の決定においては抗AQP4抗体や抗NMDA受容体抗体などの自己抗体も合わせて評価することが望ましい.急性期治療はステロイド治療や免疫グロブリン静注療法などの免疫療法で効果を示す例が多いが,半数程度の症例で再発することが知られている.また,再発例では再発予防として維持療法も検討する必要があり,長期にわたる診療が必要である.本発表では小児期発症のMOGADの病型やその臨床的特徴,診断については最新の国際診断基準2023にも触れながらMOGADの臨床全般について述べたい.

  • 漆葉 章典
    2024 年 56 巻 4 号 p. 290-294
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー
    電子付録

     免疫介在性壊死性ミオパチーは自己免疫性筋炎の一型で,筋病理学的に壊死・再生過程を主要所見とする.特異自己抗体として抗signal recognition particle(SRP)抗体と抗3-hydroxy-3-methylglutaryl-coenzyme A reductase(HMGCR)抗体が同定されている.高度の筋線維壊死を反映し,血清クレアチンキナーゼ(CK)値は著しい高値を示す.主症状は亜急性経過の四肢近位筋力低下で,筋力低下はしばしば高度である.上肢挙上困難など上肢帯の筋力低下が病初期から目立つ例もある.近年,小児例の報告により,小児筋炎の主要病型の一つであることがわかってきた.小児例では経過が一見,慢性的に見えることがあり,筋病理学的に壊死・再生過程を主体とする点で類似する筋ジストロフィーとの鑑別に難渋することがある.免疫介在性壊死性ミオパチーの見落としは治療方針や予後に大きく影響するため,鑑別診断を検討する際にはその可能性を積極的に考慮すべきである.免疫介在性壊死性ミオパチーの可能性を想起するポイントとして,「亜急性発症」,「血清CK値1,000IU/L以上」,「筋ジストロフィーと暫定診断されているが,分子診断は未確定」という三点が挙げられる.これらを満たす例では,抗SRP抗体や抗HMGCR抗体を含む自己抗体測定を行うことが望まれる.治療にはステロイドに加え,免疫抑制剤や免疫グロブリンなどが組み合わせられる.

  • 森 雅亮
    2024 年 56 巻 4 号 p. 295-300
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     小児炎症性筋疾患の代表的疾患である若年性特発性炎症性筋症(juvenile idiopathic inflammatory myopathy;JIIM)は,自己免疫反応性血管炎を基盤とした小児期の皮膚・筋疾患であり,小児リウマチ性疾患の中で3番目に頻度が高い.筋力低下が軽微で皮膚症状のみ認める症例もある一方,筋症状を認めず急速進行性間質性肺炎を合併する予後不良な症例もあるため,早期診断およびそれに即した治療が重要である.主となる症状は,体幹近位筋の筋力低下と特徴的な皮膚症状であるが,血管炎が背景であるため,全身で多彩な臨床症状を起こす.微熱の持続,倦怠感の発現とともに,筋力低下,筋痛が起こり,幼少児では日常動作の退行的変化として認識されることが多い.小児では,皮下石灰化が皮下組織とくに脂肪織炎の結果30%程度に生じることが報告されている.JIIM患者を,筋炎特異自己抗体により細分化すると自己抗体毎に共通した臨床像を有し,予後推定・治療選択ツールとして有用であることが最近判明し,本疾患の予後判定において有用であることも判明している.治療は,発病時の筋炎の程度により決定する.ただし血清筋原性酵素の上昇が必ずしも筋炎の程度を的確に示すわけではないため,筋痛・筋把握痛,Gowers徴候の程度などの臨床所見やMRI,筋電図,筋生検などの検査所見を併用して総合的な判断をすることが重要である.

  • 石山 昭彦
    2024 年 56 巻 4 号 p. 301-305
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/07/27
    ジャーナル フリー

     末梢神経疾患において電位依存性カリウムチャネル(voltage-gated potassium channel;VGKC)に対する自己抗体は末梢神経の過剰興奮を生じ,Issacs症候群,cramp-fasciculation症候群などのperipheral nerve hyperexcitability syndromeをきたす.臨床的には筋けいれん,ミオキミア,ニューロミオトニアなどの筋症状を主徴とし,自律神経や中枢神経症状の合併症の有無により臨床病型の診断がなされる.VGKCおよび関連分子のleucine rich glioma inactivated protein 1(LGI1)とcontactin associated protein 2(Caspr2)を含めた抗VGKC複合体抗体が病態として関与するが,検査にて陽性となる頻度は30%ほどとさほど高くない.そのため診断に際しては,神経伝導検査や針筋電図検査など電気生理学的検査により神経軸索の異常興奮性を示す所見を確認することが重要である.神経伝導検査では,F波に引き続く(刺激誘発性)反復性放電を認め,針筋電図検査ではミオキミア放電,ニューロミオトニア放電などを確認する.これらの疾患ではナトリウムチャネル阻害薬である抗てんかん薬などが症状緩和に有効で,かつ難治例では血漿交換による自己抗体除去,免疫治療として免疫グロブリン静注療法やプレドニンも有効である.希少疾患であるかもしれないが治療可能な疾患でもある.小児神経診療における末梢神経の免疫性神経疾患についても理解を深め,適切な診断により治療機会を逸さないよう日々の診療にあたりたい.

地方会
feedback
Top