音楽学
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レナード・マイヤーとニュー・ミュージコロジーの関係についての一考察 ─―ジョゼフ・カーマンの『音楽を熟考する』における「批評」との比較を通して─―
小寺 未知留
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2018 年 63 巻 2 号 p. 128-

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抄録

  本論文は、レナード・マイヤーが『音楽を説明する――試論と探求』(1973)の中で掲げた「批評」あるいは「批評的分析」を、ジョゼフ・カーマンが『音楽を熟考する――音楽学への挑戦』(1985)で新しい学問領域として提示した「批評」と比較するものである。その際、既存の音楽研究に対する批判点としてカーマンが示した以下の4点を通して、マイヤーとカーマンの視座の相違を検証する――①カール・ヘンペルとアーサー・メンデルの議論を根拠とするD-Nモデルへの拘泥、②論拠としての「美的体験」の排除、③作品の内的な構造のみへの執着、④歴史研究ないし歴史的観点の軽視。その結果、マイヤーの「批評的分析」における「内的な構造の重視」と「音楽理論への依拠」がカーマンの提示する「批評」とは軌を一にしないこと、そのためカーマンの提示した「新しい音楽学」からは差別化されたことが明らかにされる。
  また本論文は、これまで十分に論じられることのなかった、マイヤーとニュー・ミュージコロジーの関係を検証するものでもある。その音楽意味論がスーザン・マクラリーやローズ・サボトニックなどのニュー・ミュージコロジストと呼ばれる研究者らにひとつの基盤を提供した一方で、マイヤーは、カーマンが提起する新しい研究領域を担う人物としては認定されなかった。つまり、1977年に米国音楽学会から独立するかたちで音楽理論学会が設立された後、カーマンが再び歴史研究対理論研究という構図を設定し、その歴史側を「批評」と呼んだことによって、マイヤーはそうではない理論側に取り残されたのである。

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2018 日本音楽学会
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