音楽学
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19 世紀後半のパリ・オペラ座におけるバレエ伴奏者 ─―フランス国立文書館及びオペラ座図書館の資料に見る実態―─
永井 玉藻
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2018 年 63 巻 2 号 p. 94-109

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抄録

  19世紀のパリ・オペラ座において、バレエの伴奏は弦楽器奏者の仕事だった。彼ら伴奏者は、当時のバレエ・カンパニーに必須の存在であり、日々のリハーサルのために、弦楽器伴奏者専用のリダクション譜も作成されていた。バレエ伴奏が弦楽器によって行われていたことは、ワイリーやスミス、デイらによって言及されてきたが、その詳細には未だ不明な点が多い。
  そこで本稿では、19世紀後半から20世紀初頭にかけてのオペラ座におけるバレエ伴奏者について、彼らの人物像や劇場での立場の解明と、弦楽器奏者によるバレエ伴奏が衰退した時期の特定を試みた。
  今日、フランス国立文書館や、フランス国立図書館分館のオペラ座図書館には、19世紀のオペラ座に関する資料が多く所蔵されている。それらのうち、19世紀後半にオペラ座で稽古伴奏を行っていたバレエ伴奏者に関する書類を精査したところ、当該時期のオペラ座監督の義務書が、バレエの稽古のために伴奏者、あるいはヴァイオリン奏者を雇用すると定めていたことが明らかになった。
  さらにこの職務は、ほとんどの場合において、オペラ座オーケストラの弦楽器奏者2?3人によって担われていた。彼らには、オーケストラ奏者としての給与とは別に、伴奏者としての給与も支払われていた。したがって、バレエ伴奏は、当時としては非常に珍しく、オペラ座から許可された副業として位置付けられていたと言える。しかし、その社会的地位は、オペラの稽古伴奏者に比べて極めて低いものだった。
  こうした弦楽器のバレエ伴奏者は、1920年代ごろまで活動していた可能性が高い。その後はピアニストによる伴奏へ移行し、今日のようなピアノでの伴奏が一般的になった。しかし、バレエ伴奏は19世紀半ばからオペラ座の一役職として認知されており、その伴奏には、必要な才能や条件があると考えられていたのである。

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2018 日本音楽学会
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