音楽学
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芸術的共同体――青年音楽運動における音楽実践の役割について――
牧野 広樹
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2019 年 65 巻 1 号 p. 18-31

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抄録

  本稿では、青年音楽運動における共同体像がどのような芸術表象をモデルとして形成されたのか、そしてその実現にあたって音楽実践がどのような役割を担ったのかを、その代表的な活動家であるフリッツ・イェーデ、ゲオルク・ゲッチュ、ハンス・フライヤーの著作をもとに考察する。その際、トマス・トゥリノの「可能世界」概念を導入しつつ、〈可能世界〉を〈現実世界〉へと接続させる行為として音楽実践を捉えることによって、彼らそれぞれの共同体モデルを浮き彫りにすることを試みる。
  フリッツ・イェーデは、ポリフォニーという音楽形式をメタファーとして、それぞれに立場の異なる構成員が一つの作品を織りなす共同体像を構想し、その実現にあたって対話の契機として音楽実践の役割を位置づけた。彼の行った授業の様子や「開かれた音楽の時間」という催しから、その実現を試行していたことが明らかになる。ゲオルク・ゲッチュは、イングランドの形式舞踊をモデルとした共同体像を構想し、個々の小共同体の形成と、それらをネットワークで繋げる手段として、音楽実践の役割を位置づけた。その実現に向けて、ゲッチュは頻繁に外国への演奏旅行を行っている。ハンス・フライヤーは、音楽作品が実践によって生起するという構造そのものをモデルとした共同体像を構想し、その共同体を形成し、維持する手段として、音楽実践の役割を位置づけた。この音楽が生起する構造をモデルとした共同体像は、国家にまで敷衍され、彼の共同体論を支えることとなる。
  このようにみると、「ゲマインシャフト(共同体)」という一語には集約しえない、多彩な共同体モデルが、青年音楽運動の活動家たちによって構想されていたこと、その構想にあたって諸芸術の形式や特徴がモデルとして援用されていたこと、そしてその共同体像の実現にあたって音楽実践が重要な役割を担っていたことが明らかになる。

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2019 日本音楽学会
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