音楽学
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グィド・アドラーの音楽学体系における音楽美学――心理学との関係と「内容分析」の射程――
小川 将也
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2020 年 65 巻 2 号 p. 106-121

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抄録

  本稿は、グィド・アドラーの著作『音楽史の方法』(1919年、以下『方法』)を主たる対象に、彼の音楽学体系内にその座を与えられる「音楽美学」とは〈心理学的美学〉であることを示すとともに、音楽様式の「内容分析(Inhaltsanalyse)」と〈心理学的美学〉との接点を、特にオーストリア哲学の文脈から読み取る試みである。
  従来のアドラー研究は、彼の美学批判に繰り返し注目してきた。たしかに、論文「音楽学の範囲、方法、目的」(1885年、以下「体系論文」)や『方法』内には、美学理論が思弁的であり厳密な根拠に欠ける点を批判する記述がある。しかし、両著作中に掲載された音楽学体系図には、音楽学の体系的部門の一分野として「音楽美学」が記されていることも事実であり、アドラーの美学に対する消極的姿勢を強調するのは一面的であるように思われる。本稿では、これまで個別に論じられてきた、美学、心理学そしてオーストリア哲学に対するアドラーの見解を引用テクストと照合しながら総合的に検討し、「内容分析」をこれらの結節点として捉える。
  はじめに、アドラーによる美学批判を確認したのち、彼が体系内に認める「音楽美学」とは〈心理学的美学〉を指していることを明らかにする(第1節)。続いて、「内容分析」に関連して、クレッチュマーの音楽解釈学、ディルタイの解釈学、そしてリップスの感情移入理論に対するアドラーの見解を分析する(第2節)。最後に「内容分析」と〈心理学的美学〉との接点を、ブレンターノ学派に属するクライビヒの論文「芸術創造の心理学への寄与」(1909)を手掛かりに考察する(第3節)。以上の考察を通じて、アドラー思想と心理学説との布置連関の一端が明らかになるとともに、歴史的心理学と記述的心理学との潜在的対立が彼のテクスト内に見出される。

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2020 日本音楽学会
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