日本温泉気候物理医学会雑誌
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原著
森林浴が生体に及ぼす生理学的効果の研究
近藤 照彦武田 淳史小林 功谷田貝 光克
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2011 年 74 巻 3 号 p. 169-177

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抄録

    森林浴は、リラクセーションならびに心身の健康をもたらすとされる。我々は高齢者を対象として、森林浴が生体に及ぼす生理学的効果について検討した。被験者は、2008年から2010年の3回の森林浴測定に参加した高齢者男性24名(65.5±2.5歳)および女性24名(65.0±3.0歳)である。森林浴測定は、8月第3週水曜日の日程で2時間行った。測定時の天候は晴れ、気温30℃から32℃、湿度58%から60%、風速0m/secから2m/secであった。森林浴および非森林浴の測定は、被験者を3グループに分けた。1つのグループは、防臭マスクによる嗅覚遮断男性8名および女性8名、アイマスクによる視覚遮断男性8名および女性8名、コントロール男性8名および女性8名(非遮断)である。非森林浴は、同一被験者による室内環境において日を変えて同一条件下で測定した。フィトンチッド濃度は、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いた。測定項目は、森林浴ならびに非森林浴前後の気象データ、心拍数、血圧、カテコールアミン3分画、コルチゾールおよびNK細胞活性について調べた。本研究における森林浴測定地点から樹木由来のフィトンチッドが3種類検出された。男性の森林浴および非森林浴における平均心拍数は、89bpmおよび85bpmであった。女性の森林浴および非森林浴における平均心拍数は、86bpmおよび85bmpであった。森林浴前後の男女収縮期血圧は、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後の男性拡張期血圧は、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後の男女アドレナリンは、嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。森林浴前後のノルアドリナリンは、男性のコントロール、女性の嗅覚遮断およびコントロールにおいてそれぞれ有意に低下した。同様に、男女のコルチゾールは、嗅覚遮断およびコントロールにおいて有意に低下した。森林浴前後の男女NK細胞活性は、有意差を認めなかった。非森林浴前後における血圧、カテコールアミン、コルチゾールおよびNK細胞活性は、男女とも有意差を認めなかった。
    森林浴は、フィトンチッドや緑の森林環境が生体に対してリラックス効果を及ぼすことが指摘されている。今回、高齢男性および女性を対象とした検討から、視覚遮断群で有意差は認めた測定項目はなかった。有意差を認めた測定項目は、嗅覚遮断およびコントロールの両群であった。森林浴の生体に対する効果は、フィトンチッドも含めた生体五感に関わる複合的要素の生理学的効果が短時間に存在する可能性が示唆された。
    香りや視覚の量的、質的データと生理・心理的応答との関連性の調査結果の蓄積が今後の課題である。

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