日本温泉気候物理医学会雑誌
Online ISSN : 1884-3697
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早期公開論文
早期公開論文の6件中1~6を表示しています
  • 藤田 洋輔, 菊池 友和, 山口 智, 関谷 剛, 坂本 歩, 竹治 真明
    論文ID: 2364
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー 早期公開

      目的:鍼治療は主にステンレス鍼を用いる.しかし,金属アレルギーを有する患者では鍼素材の考慮も必要となる.今回,専門医と連携しアレルギー症状のリスク管理が良好であった症例を経験したので報告する.

      症例:35歳女性.主訴は月経随伴症状,頸部痛,腰痛で,24歳で2子の出産後より月経諸症状が出現し,頸腰部痛は慢性的に感じていた.漢方や鍼治療の受診希望があり今回当科を受診した.なお,金属アレルギー症状を有することも聴取された.

      経過:患者の鍼治療の希望は強く,当科アレルギー専門医と相談し皮膚科専門医へ精査依頼の上,症状や所見より頸部筋筋膜性疼痛や非特異的腰痛(関節性・筋性),月経前症候群を疑い,鍼治療は金属アレルギーを考慮しチタン製円皮鍼の貼付や樹脂製皮膚鍼の押圧とし,隔週で計3回行った.1か月後,パッチテストで硫酸ニッケルの陽性(ICDRG基準:48時間後+,72時間後++,9日後+)が判明し,当科同医師と相談し患者同意の上,手足遠位部にシリコーンコーティング・ステンレス鍼を刺鍼し15分間留置,更に治療後や次回まで経過観察を行った.第5回目より頸腰部局所も刺鍼に変更したが,全てアレルギー症状の出現はなかった.

      考察・結語:本症例において,専門医との連携により金属アレルギー症状の出現はなく安全に鍼治療が行えた.今後はリスク管理や早期発見を考慮した専門医との連携,鍼灸師への金属アレルギーの啓発による安全な鍼治療の提供,更に対応の蓄積を行い安全性の高い鍼治療の確立を目指したい所存である.

  • 殿山 希, 白岩 伸子, 児玉 大地, 志鎌 あゆみ
    論文ID: 2370
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/03/17
    ジャーナル フリー 早期公開

      【研究の背景】がん罹患数は増加している一方,医療技術の高度化によりがん治療後の長期生存者も増加している.がんサバイバーは標準治療の後の心身の不調に悩む場合も多く,特に,化学療法誘発性末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy,CIPN)は抗がん剤治療後に多くの患者が経験する.しかし,未だ改善薬も見つからず,海外では非薬物療法に期待が寄せられる.私達はあん摩療法を3年余にわたり継続させて効果を検討した.

      【症例】67歳の女性.主訴は下腿から足部の遠位優位の痛み・しびれ.腫瘍科での診断:CIPN(CTCAE Grade 2).現病歴:5年前に卵巣がんで手術.補助化学療法としてパクリタキセル・カルボプラチン療法を6回施行.その後,がんは再発なく経過.抗がん剤治療直後より上記主訴が出現して靴下も靴も履けない.

      【治療】毎週1回,30分間のあん摩施術を肩部,背部,上肢を短時間含めて,腰部から下肢に施術した.特に,下腿,足背,足底,足趾は筋・筋膜,神経を意識してその深さで施術した.

      【結果】患者が示す痛み・しびれのvisual analog scale (VAS)値は徐々に低下し,範囲も狭小化した.その結果,柔らかい素材で作られた靴や靴下が履けるようになった.これらの患者の主観的評価は,神経内科医が行った感覚検査の結果と一致した.振動覚検査は3年2か月の継続治療の後,8カ所の測定部位のうち,6カ所が正常値に復した.神経伝導検査では活動電位が導出可能となり,伝導速度も徐々に改善したが,複合筋活動電位振幅は回復しなかった.

      【考察】あん摩による触圧刺激は体表から中枢神経系を介してゲートコントロールや下行性疼痛抑制系に関与して鎮痛を促したと考える.あん摩手技は主に筋に揉捏法と圧迫法を繰り返し行うが,その刺激の受容体はパチニ小体であり,深部感覚である振動覚の改善につながった可能性が考えられる.軸索変性は改善していないが,疼痛局所に限らず短時間でも全身的に刺激を与えることで下肢全体の循環系・神経系に良い影響を与えたと考える.比較試験による検討が必要である.

  • 柳 奈津代, 早坂 信哉, 近藤 克則, 尾島 俊之
    論文ID: 2365
    発行日: 2025年
    [早期公開] 公開日: 2025/03/04
    ジャーナル フリー 早期公開

      【背景・目的】フィンランド式サウナ入浴には,高血圧や認知症のリスクを低減するなど,健康に有益な効果があることが報告されてきた.日本で日常的に行われている浴槽入浴はサウナ入浴とは異なるものの,心血管疾患や抑うつのリスク低減との関連が報告されている.しかし日本において認知症との関連は明らかではない.そこで本研究では,大規模縦断データを用いて,日本の地域在住高齢者における浴槽入浴頻度と認知症発症との関連を検討することを目的とした.

      【方法・結果】要介護認定を受けていない65歳以上の地域在住高齢者を対象とする日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを使用した.ベースライン調査は2010年に実施され,認知症の発症は介護保険制度の自立度の記録を用いて評価した.夏と冬の浴槽入浴頻度について欠損値のある者を除外したところ,解析対象者は夏で7,509人,冬で7,590人であった.浴槽入浴頻度を低頻度群(0~6回/週)と高頻度群(7回以上/週)の2群に分け,認知症発症との関連を調べるため,競合リスクモデルを用いた生存分析を行った.浴槽入浴の低頻度群を基準として,サブハザード比(SHR)と95%信頼区間(CI)を算出した.9年間の追跡期間中に8,317人のうち1,430人(17.2%)が認知症と判定された.高頻度入浴群は認知症発症リスクが有意に低く,この関連は性別,年齢,身体状況などの共変量で調整した後も有意であった(夏季;SHR=0.74,95% CI:0.62~0.88,冬季;SHR=0.82,95% CI:0.70~0.97).

      【結論】地域在住日本人高齢者において,高頻度の浴槽入浴と認知症の発症に関連がみられた.日本人高齢者の浴槽入浴の習慣による認知症予防の可能性が示唆された.

  • 山科 吉弘, 熊部 翔, 岩村 真樹, 安藤 卓, 森田 恵美子, 田平 一行
    論文ID: 2368
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー 早期公開

      本症例報告では,両変形性膝関節症および呼吸筋力低下を有する72歳の女性を対象に,水中運動プログラムが呼吸筋力および膝伸展筋力に与える影響を検討する.呼吸筋力の低下は咳嗽能力の低下に関連し,特に身体活動が制限される高齢者において無気肺や肺炎のリスクを増加させる.本報告では,両変形性膝関節症および呼吸筋力低下を有する対象者に対する水中運動の効果を報告する.対象者は8週間の水中運動プログラムに参加した.このプログラムでは,第4肋間以上の深さの水中を歩行し,予測最大心拍数の60%を目標に設定した.介入前後で膝伸展筋力,握力,呼吸筋圧,肺活量,6メートル歩行速度を測定した.結果としては,介入後,呼気筋力,両側膝伸展筋力,および歩行速度の改善が認められた.水中環境の浮力は関節への負荷を軽減し,水の粘性は抵抗を提供して筋力強化を促進する.呼気筋力の増加は,水中での静水圧による抵抗を利用した呼吸筋のトレーニング効果を示唆している.これらの結果は,運動器系の疾患を患い,日常生活活動に制限を有する方における水中運動の価値を強調し,高齢者の呼吸機能維持における有用性も示している.今後の研究では,長期的な効果を検討し,より多様な対象者を含めた検証が必要である.

  • 猪熊 茂子
    論文ID: 2024919
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/11/26
    ジャーナル フリー 早期公開
  • 片岡 隆浩, 迫田 晃弘, 神﨑 訓枝, 光延 文裕, 山岡 聖典
    論文ID: 2363
    発行日: 2024年
    [早期公開] 公開日: 2024/11/12
    ジャーナル フリー 早期公開

      三朝(鳥取県)の温泉療法は,バドガスタイン(オーストリア)やモンタナ(アメリカ)の坑道療法とともにラドン療法(特にラドン高濃度熱気浴療法)として世界的に有名である.ラドン療法の適応症には,活性酸素種に起因する呼吸器・疼痛・消化器・慢性変性・老年性などに関わる様々な疾患が含まれるが,その多くは経験的処方に基づいている.このため,筆者らはラドンと子孫核種に関連した被ばくの主要経路の特定や体内挙動の実験的・数理的な検討を行い,吸入などにより生じる生体反応と組織・臓器吸収線量との関係をより定量的に評価し,適応症に関わるメカニズムの解明と新たな探索の基礎研究を進めてきた.その結果,メカニズムとしては,ラドン吸入により生じる少量の酸化ストレスに伴う一連の適度な生理刺激作用に関して解明されつつある.すなわち,抗酸化・免疫調節・損傷修復機能の亢進,抗炎症・ホルモン分泌・循環代謝の促進,アポトーシス・熱ショックタンパク質の誘導などである.また,新たな適応症として,炎症性・神経障害性疼痛,炎症性浮腫,胃粘膜損傷,潰瘍性大腸炎,高尿酸血症,1型糖尿病,肝・腎障害,一過性脳虚血発作,うつ病などの可能性が示唆される.さらに,ラドン吸入と抗酸化剤や治療剤との併用による疾患の抑制効果に関して,いずれもその効果を高めることが示唆される.副作用の強い薬剤に対して減薬効果が期待できるため,通常の治療に対するラドン療法の併用効果の更なる臨床的検証が求められる.

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