日本温泉気候物理医学会雑誌
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早期公開論文
早期公開論文の7件中1~7を表示しています
  • 山科 吉弘, 熊部 翔, 田平 一行
    論文ID: 2362
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/12/26
    ジャーナル フリー 早期公開

      予測最大心拍数の60%負荷による水中歩行が高齢者の呼吸筋力に与える影響とその持続効果について検討した.参加者は,高齢男性43名(年齢68.6±3.4歳)とし,ランダムに水中歩行の継続群(21名)と非継続群(22名)に分けた.まず,両群ともに6週間の水中歩行を実施し,その後6週間は,継続群は同じ水中歩行を継続し,非継続群は日常生活以外の特別な運動を禁止した.水中歩行は,第4肋間以上の水深にて運動強度は予測最大心拍数の60%になるように歩行速度を調節し,30分間歩行を週に4回実施するものとした.測定項目は吸気筋力 (PImax),呼気筋力(PEmax),肺活量(VC)とし,運動前,6週後,8週後,10週後,12週後に測定した.両群においてPImaxおよびPEmaxは運動前と比較し6週間後に有意な上昇を認めた.継続群は12週目にはPEmaxが6週目と比較し有意に上昇したが,PImaxは有意な上昇を認めなかった.非継続群は6週目と比較し,PEmaxは10週目には有意な低下を認め,さらに継続群と比較し有意に低値を認めた.非継続群のPImaxは6週目と比較し12週目は有意な低下を示した.VCは,両群において運動前と比較し,有意差は観測されず,6週間目以降も両群で有意な変化を示さなかった.水中歩行では水圧に抗しながら前進するため,呼気筋である腹筋群を働かせ体幹を固定する必要性が生じることから,継続群では6週目以降もPEmaxが上昇したと考えられる.一方で非継続群はプログラム終了後4~6週間にて呼吸筋力は低下することが示唆された.

  • 松田 えりか, 近藤 宏
    論文ID: 2360
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/10/03
    ジャーナル フリー 早期公開

      STarT Back Screening Tool(以下,SBST)は,腰痛の慢性・難治化リスクを簡便に評価するための確立された臨床評価ツールである.本研究では,鍼治療を受けている腰痛患者において,SBSTの有用性について検討した.2019年から2022年までに筑波技術大学保健科学部附属東西医学統合医療センター鍼灸外来を受診した腰痛患者71人を,腰痛の原因を問わず対象とした.調査項目はSBST,腰部疼痛強度visual analogue scale(以下,VAS)とし,基本属性と鍼治療内容の情報はカルテより収集した.治療開始から4週間後のVASの値を臨床転帰の指標とし,反復測定分散分析と階層的重回帰分析により解析した.初診時のSBSTによる分類は,low risk群36人,medium risk群30人,high risk群15人であった.反復測定分散分析では,4週間の前後(P<0.01),初診時の3群分類(P<0.01),および交互作用(P<0.05)に統計学的有意差が認められた.4週間後のVAS値は,high risk群の値が他の2群と比較し有意に高かった(いずれもP<0.01).4週間後のVASを従属変数とした階層的重回帰分析では,SBSTとの交互作用項,属性項目および治療に関する項目を調整したいずれのモデルにおいてもSBSTの回帰係数には統計学的有意差が認められた.また,回帰式の単純傾斜分析では,下肢症状を有する場合は有さない場合と比較し,初診時high risk群の4週後のVASの値が,他の2群に比べ高くなる傾向がより明確であった.以上から,SBSTは鍼治療における臨床転記の予測に関して,簡便かつ有用なツールとなり得ることが示唆された.

  • 早坂 信哉, 尾島 俊之, 八木 明男, 近藤 克則
    論文ID: 2359
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/07/24
    ジャーナル フリー 早期公開

      【背景・目的】高齢者において抑うつの発症は様々な疾患のリスクとなり,要介護状態に陥るきっかけとなる.一方,日本においては浴槽の湯につかる特有の入浴法が多くの国民の生活習慣となっているが,この生活習慣としての浴槽入浴と長期的な抑うつ発症との関連は明らかではなかった.本研究は,大規模な6年間にわたる縦断研究によって生活習慣としての浴槽入浴が長期的な抑うつ発症との関連を明らかにすることを目的とした.

      【方法】Japan Gerontological Evaluation Study(以下,JAGES)の一環として2010年,2016年に調査対象となった11,882人のうち,自立しておりかつGeriatric Depression Scale (以下,GDS)4点以下で抑うつがなく,夏の入浴頻度の情報のある6,452人,および冬の入浴頻度の情報がある6,465人をそれぞれ解析した.コホート研究として週0~6回の浴槽入浴と週7回以上の浴槽入浴の各群の6年後のGDSによる抑うつ発症割合を求め,浴槽入浴との関連をロジスティック回帰分析によって年齢,性別,治療中の病気の有無,飲酒の有無,喫煙の有無,婚姻状況,教育年数,等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比を求めた.

      【結果】週0~6回の浴槽入浴に対する週7回以上の浴槽入浴の抑うつ発症の,調整後の多変量解析によるオッズ比は夏の入浴頻度0.84(95%信頼区間:0.64~1.10),冬の入浴頻度0.76(95%信頼区間:0.59~0.98)であり,冬に週7回以上浴槽入浴することは抑うつを発症するリスクが有意に低かった.

      【結論】習慣的な浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整などによる抑うつ予防作用による結果の可能性があり,健康維持のため高齢者へ浴槽入浴が勧められることが示唆された.

  • 森 康則, 中村 毅, 大村 浩一郎, 坂口 俊二, 山口 智, 堀内 孝彦, 上岡 洋晴
    論文ID: 2356
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/04/14
    ジャーナル フリー 早期公開

      国内外を脅かしたCOVID-19のパンデミックを機に,医師だけでなく,看護師,理学療法士,作業療法士等のコメディカルをはじめとする医療従事者に対して,非常に多くの社会的注目が集まることとなった.日本温泉気候物理医学会学術委員会では,このパンデミックにおかれた医療従事者の実態を,本学会の視点から,後世に記録する必要があると考えた.具体的には,医療従事者のCOVID-19に関連する患者対応やその業務内容が,温泉利用をはじめとする行動制限や主観的健康感,主観的負担感にどのような変化を与えたかの経時的な実態の把握を試みるものである.温泉療法医会の支援により,全国の医療機関や介護施設で勤務する医療職,介護職等を対象に研究協力を呼びかけた結果,N=754のデータを得ることができた.このデータを使って,統計解析を行った結果,業務上のCOVID-19患者の対応がある医療従事者らが,非対応の一般群に比べて,温泉旅行などの行動制限を強く受けていただけでなく,「気分」の低下,「身体的負担感」の増大を感じていたことが明らかになった.また,医師,看護師をはじめとする医療職と,介護福祉士をはじめとする介護職や,事務作業を行う一般職と群間比較を行ったところ,医療職が最も温泉旅行などの行動制限を受けており,他の職種に比べて「不安感」,「緊張感」,「ストレス感」,「身体的負担感」,「精神的負担感」を強く感じていたことがわかった.さらに,病院や診療所などの医療機関と,特別養護老人ホームなどの介護施設,一般施設といった勤務施設別に比較したところ,医療施設で勤務する者の方が,「緊張感」や「ストレス感」,「身体的負担感」,「精神的負担感」を強く感じていたことが示された.以上のことから,COVID-19影響下で,全ての人に全体的に様々な負担や影響がある中,特に医療機関で勤務するCOVID-19患者に対応してきた医療職が,精神的な閉塞感から,健康感の低下,心身の負担感の増加を感じている実状が明確に示された.

  • 前田 豊樹
    論文ID: 2355
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/03/16
    ジャーナル フリー 早期公開

      42℃の高温培養がヒト臍帯内皮細胞 (HUVEC) の増殖を阻害したことを以前に報告し,抗癌治療などの細胞増殖抑制操作と高温条件の組み合わせが,体細胞の増殖をより効果的に抑制される可能性を示した.そこで,がん治療の前処置として深部体温の上昇によりがん治療の有効性が高まるのではないかという仮説を立てるにいたった. 本報告では,がん細胞(Jurkat 細胞,および SLVL)と対照である正常体細胞としてHUVECsに対して,抗がん操作(X線照射または1-β-D-アラビノフラノシルシトシン[Ara-C]添加)を行い,それによりもたらされる細胞の増殖速度とテロメア長の変化を観察した.細胞増殖抑制効果の程度は,細胞の種類,抗がん剤の処置,および温度条件の組み合わせに依存していた.このことから,癌治療で最適な治療効果を生む深部体温条件は,いくつかの温度条件と抗がん操作の組み合わせの下で生検がん細胞の増殖速度を培養条件下でチェックすることによって事前に検討できる可能性が示唆された.

  • 前田 豊樹
    論文ID: 2354
    発行日: 2023年
    [早期公開] 公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー 早期公開

      2018年には,世界一の源泉数を誇る別府市において,高齢者の習慣的な温泉入浴による疾病予防効果に関する疫学的研究を報告した.この分析では,糖尿病の女性は,習慣的に温泉を利用しない人よりも習慣的温泉利用者により多く見られた.この温泉浴の明らかな悪影響が本当かどうかを調べるために,本研究では糖尿病女性の複雑な背景疾患を調査した.入浴者と非入浴者の糖尿病に合併する背景疾患を比較した.温泉を利用しない人に比べて,糖尿病患者は温泉を利用する人の方が,がん生存率が高いことが明らかになった.観察されたオッズ比は,温泉浴に関連するがん生存促進が,過去にがんの病歴を持つ糖尿病女性の数の増加につながり,習慣的な温泉浴が糖尿病の病因を促進するよりもむしろ,温泉浴で糖尿病の女性の増加につながることを示唆していた.

  • 大古 拓史, 梅本 安則, 田島 文博
    論文ID: 2353
    発行日: 2022年
    [早期公開] 公開日: 2022/11/30
    ジャーナル フリー 早期公開

      【目的】健常若年男性における40°C頚下浸水と自転車エルゴメーターを用いた15分間の持久運動の併用が,血清BDNFの濃度変化に与える影響を評価することを目的とした.

      【方法】実験は,パラレルデザインで実施した.10名の健常男性を対象とし(年齢23.7±0.8歳),介入群は,40°Cの頚下浸水(head-out water immersion:HOI)と自転車エルゴメーター運動を組み合わせた群とし(40°C HOI-ex),比較対照群は,40°CのHOIのみとした. 30分間の安静後,40°C HOI-exまたは40°C HOIを15分間実施し,30分間の回復を設けた.実験中は,心拍数,血圧,深部温度(食道温)を連続的に測定した.採血は30分間の安静後,実施直後,回復15分後,30分後で実施した.解析項目は,血清BDNF,P-セレクチン,血小板数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血漿コルチゾール,乳酸を測定した.

      【結果】血清BDNF濃度は,40°C HOI-exにおいて安静時と比較し,実施直後,回復15分後に有意な増加が観察された.40°C HOIでは,血清BDNF濃度の変化は観察されなかった.深部温度は,40°C HOI-ex,40°C HOIにおいて安静時と比較し,実施直後,回復15分後,回復30分後に有意に増加し,群間差がみられた.血小板数は,40°C HOIおよび40°C HOI-ex共に変化はなかった.40°C HOI-exのP-セレクチンは,安静時と比較し,実施直後,回復15分後に有意な増加が観察された.40°C HOIでは,P-セレクチンの変化は観察されなかった.

      【考察】40°Cの頸下浸水と自転車エルゴメーター運動の併用は,15分間の短時間で血清BDNF濃度を増加させることができる.本研究における血清BDNF濃度の増加は,P-セレクチンが増加していることから,血小板由来である可能性が示唆される.

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