2017 年 80 巻 3 号 p. 155-159
【背景と目的】浴槽内溺水では気管内に侵入した水が肺胞内から毛細血管へ移行して,低ナトリウム血症と低クロール血症となることが知られている.そこで,浴槽内心肺停止(cardiopulmonary arrest: CPA)の病態が赤血球に及ぼす影響を検討した.
【対象と方法】2007年から2009年までの3年間に浴槽内に水没して本院救命救急センターに搬送されたCPA39例(年齢:8~95歳,中央値78歳)を対象とした.自己心拍は6例で再開したが,全例死亡を確認した.以下の項目を検討した.搬入時の血液・生化学検査から,電解質(Na,Cl),ヘマトクリット(hematocrit: Ht)/ヘモグロビン(hemoglobin: Hb)値,平均赤血球容積(mean corpuscular volume: MCV)と平均赤血球ヘモグロビン量(mean corpuscular hemoglobin: MCH),および浴槽内CPA2例のMCVとMCHの経時的変化,即ち自己心拍再開症例と外来通院中であった症例と浴槽内溺水とは別の水中毒症2例のMCVの経時的変化.
【結果】血清Na(正常値:135~148mEq/L)では18例が正常下限を下回り,21例が正常であった.血清Cl(正常値:98~108mEq/L)では22例が正常下限を下回り,17例が正常であった.Ht/Hb値が正常(2.78~3.13)であったのは3例のみで,36例は正常上限を上回った.MCH(正常値:27.8~33.5pg)では3例が正常下限を下回り,1例が正常上限を上回り,35例が正常であった.MCV(正常値:85.3~100.4fl)では23例が正常で,16例が正常上限を上回った.自己心拍再開例では,MCVは当日の97.9flから第1病日には92.4flへと低下し,以後92.0fl前後で推移した.外来通院中であった症例ではMCVは発症37日,12日前の103.0fl前後から当日の107.4flに増加した.水中毒症例では,MCVは第1,2病日には変化が無く,第4病日以降に初日の87.0flから91.4flに,89.1flから96.5fl前後にそれぞれ増加した.
【結語】水中毒症とは異なり,浴槽内溺水では電解質と同様にHtは減少すると予想したが,風呂水の血中への移行による血漿浸透圧の低下のために赤血球は膨化し,その膨張率が希釈率を上回ったためにHtは低下しなかったものと思われた.