論文ID: 2311
目的:温泉法および環境省が定める鉱泉分析法指針等の関連通知において,温泉水1kg中に30×10−10Ci/kg(8.25マッヘ単位,111Bq/kg)以上のラドンが含まれるとき,療養泉としての放射能泉に該当し,泉質別適応症(浴用)として,高尿酸血症(痛風),関節リウマチ,強直性脊椎炎などを,掲示することができることが規定されている.本研究では,空気中に揮散したラドンの人体への作用に着目し,放射能泉を用いた熱気浴による深部体温,皮膚血流量,主観的感情への影響を検証した.
方法:本実験は,放射能泉を利用した熱気浴室で実施された.熱気浴室内の室温は約38℃,相対湿度は約78%とした。被験者(健常の若年男性 8名)は,40分間の熱気浴を2回行い,その後40分間の後安静を施した.2回の熱気浴は比較的高濃度と低濃度の空気中ラドン(ラドン浴群:約710Bq/m3,対照群:約140Bq/m3)内で行った.熱気浴および浴後における被験者の深部体温,表在温,皮膚血流量,主観的感情(MCL-S.2,VAS,NRS)のそれぞれの変化をモニターし,各介入群の群間比較を行った.
結果および考察:主観的感情(MCL-S.2)の比較の結果,ラドン浴群における熱気浴前後の「快感情」でスコア上昇,VASでは「ストレス感」および「身体の冷え・冷感」スコア低下が,それぞれ有意に認められた.さらに熱気浴により皮膚血流量は有意に増加し,その持続時間が,ラドン浴群が対照群に比べて長いことが示された.これらの結果から,放射能泉を用いた熱気浴による血行促進の持続効果が推測されるとともに,それに伴う身体の冷えやストレス感の低下をもたらす可能性が示唆された.