日本温泉気候物理医学会雑誌
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10年経た温泉利用の介護予防運動施設—介護・福祉面からの評価と課題—
鏡森 定信
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論文ID: 2348

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抄録

  富山市角川介護予防センターは2011年に市街中心地に開設されました.高齢者の健康と福祉増進を目的に当センターで汲み上げた温泉水を使用して定期的に身体運動コースを提供してきました.これらの活動は,市全体をカバーするすべての32の地域包括支援センターと連携して行われており,利用者もその全管轄下に広がっています.

  この10年にわたる私たちの活動から得られた主な所見と示唆は,以下の通りでした.

  1.通所者の年間の延べ数は年間約6万から9万に増加しました.そのうちの約4分の1は,地域包括支援センターを介した65歳以上のQOL(Quality of Life)ツアー会員で,3か月を1単位として週に2回,無料送迎バスで利用しており,これ以外の会員は40歳以上で自分に合った頻度と内容で利用しています.QOLツアー会員の70〜80%は75歳以上で徐々に増加しました.その他の会員では,この割合は10年間20〜30%でした.

  2.33〜36°Cの温泉水での身体運動(歩行,ストレッチ&フレックス,関節-筋骨格系の痛みに対する水中運動)に加えて床上運動としてのそれらも行ってきました.これらの運動強度は,体力測定である5 m歩行,30秒チェアスタンドテスト(CS30;30秒間に椅子から立ち上がった回数),タイムアップアンドゴーテスト(TUG;座位でスタートし,無理のない速さで歩き,3 m先の目印で折り返し,スタート前の座位に戻った時間),握力,ファンクショナルリーチ(立位で腕を伸ばし前方へ届く最大距離),長坐体前屈(両膝を曲げずに下肢を伸ばして座り腰関節を前屈させ,指先が届いた距離)そして医師の診察に基づいて最大心拍の30,40,50%の3レベルに決められます.

  3.3か月ごとの体力測定値のフォローアップでは,5 m歩行,握力およびCS30は,定期的な検査としての有用性から妥当な項目であることが分かりました.また,これらの縦断的経過は利用者の状況を知り対処に有用でした.

  この10年間で,利用者を市全域に広げました.しかし,新しい人の割合は毎年数パーセントにとどまり,その増加は,想定以上に少なく利用者は固定化する傾向にあります.健康と福祉の増進サービスを必要とするが,センターをまだ利用したことがない人々の利用拡大を図るため,地域包括支援センターとより緊密なコミュニケーションを取ることが一層重要です.さらに,真の予防のために中年期の人々の当センターの利用の促進も求められます.

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