音声研究
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特集「英語教育のなかの音声」
非母語話者による英語音調核の音声的実現と非母語話者間の理解度の関係(<特集>英語教育のなかの音声)
家村 雅子
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2011 年 15 巻 1 号 p. 73-86

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抄録

本論文は,英語イントネーションの構成領域の内,tonicity(主調子配置)の重要性を指摘するJenkins(2000)提案による異なる母語(L1)をもつ非母語話者(NNS)間の効果的なコミュニケーションのための(特に音韻面の)共通項であるLingua Franca Core(LFC)への問題意識を出発点とする。まずはNNSによる主調子配置の事象を把握した上で,次に適切な音調核の産出及び受容がNNS間の理解度に及ぼす影響を検証・考察した。英語能力上級NNSのL1を4つの韻律体系グループ(ストレス,声調,ピッチ,無アクセント)に分け,英語曖昧文中にみられる主調子配置の実現を知識・生成・知覚レベルで調べた結果,グループ間(ストレス言語話者とそれ以外のL1話者)で三能力の二極化か観察された。その能力差はNNS間の理解度にも反映され,主にNNSによる発話文中で知覚した英語音調核の文全体の意味への結び付け方には,L1韻律体系ごとにほぼ類似した異なるパターンをもつ傾向が見受けられた。英語と同じイントネーション(音調核)規則を持たないL1話者は,主調子配置が意味理解の手掛かりとして(少なくとも無意識レベルでは)機能していないと仮定すれば,NNSによるL2主調子配置ミスがコミュニケーション不成立の直接的な原因になるとは考えにくく,NNS間でのイントネーションによる意味レベルの意思疎通不全は起こり得ないはずである。特に発音教育の視点からは,L1とL2英語間の韻律的距離の差を考慮せずNNSを一括りで論じるLFC上のイントネーション設定部分の見直しを示唆し,音韻面のコア概念自体が様々なL1背景をもつ全てのNNS一般に通用し得るものなのかとの疑問を提示した。

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© 2011 日本音声学会
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