閩南語における後部変調は多くの先行研究において「軽声」として扱われているが,その扱いは音声的弱化を根拠とすることが多い。ところが,音声的弱化はすべての中国語方言の軽声で観察されるわけではなく,通方言的な軽声の判定基準としては妥当ではない。本稿では「声調対立の中和」という基準を採用し,閩南語掲陽方言における後部変調を考察対象と定める。筆者の内省による分析及び音響音声学的検証を通じて,その後部変調は音韻的対立を一部失うという点で軽声として扱うべきだと指摘する。
これまで日本語教師の音声教育観と指導実態に関して多くの研究が行われてきたが,海外については調査が十分でなく,共通の枠組みの欠如により各研究の調査結果を比較することも難しい。そのため,本研究ではBEOモデルに基づき,教師の理念・経験・意見に関する18項目のアンケートを作成し,中国の37大学に勤める日本語教師100名を対象に調査を行った。本稿では調査結果を述べたうえで,発音指導の実施における葛藤,指導すべき音声項目の取捨選択,発音指導における非母語話者教師の役割に対する認識について論じる。
本稿では,荷田春満のアクセント資料に現れる複合名詞のアクセントを検討する。式保存は成立せず,多くは高起式である。後部要素に2拍体言第1類・第3類・第4類を持つ4拍の複合名詞は,和田実の複合アクセント法則に従うことが多い。動詞からの転成名詞を後部要素に持つ複合名詞のアクセントは,意味上の格関係による。2+3の構造を持つ複合名詞はH2(-4)型が多く,H4(-2)型がこれに次ぐ。