抄録
エド語の[ɹ]と[l]の特徴をスペクトログラムによって検討した。これらの子音間の音響的類似性ないし相違点を把握するために,分節音持続時間長,フォルマント周波数およびフォルマント遷移を重点的に検討した。主要な知見は以下のとおりである。1.[l]のF1は母音環境が同じであれば[ɹ]のF1よりも低かった。これは調音における高さの相違を示唆している。持続時間は,すべての環境において[l]の方が[ɹ]よりも長かった。前者と後者の平均は,語頭では158.8msと116.2ms,2音節語の語中では152.5msと82.1ms,多音節語中では109.2msと75msであった。2.スペクトル特徴は[l]の調音に閉鎖音的特徴が含まれ,[ɹ]の調音は母音的であることを明瞭に示している。3.エド語の[ɹ]が弾き音であることを示唆している研究があるが,今回の研究ではそのような特徴は認められなかった。