本研究では,日本語の撥音に先行する母音がどのように中国人日本語学習者に発音されているかについて,音響分析と自然性評価実験により検討を行った。産出実験で録音された撥音の先行母音の第1・第2フォルマントを計測したところ,中国人日本語学習者と日本語母語話者の分布が異なることがわかった。学習者による/u/, /e/は分布が重なる傾向が見られ,/a/, /i/は日本語学習歴に関わらず,分布範囲が日本語母語話者とほぼ一致していた。次に,37名の日本語母語話者を対象として,母音の自然度を判断する評価実験を行った。その結果,中国人日本語学習者の撥音に先行する母音は,日本語学習歴に関わらず/u/の自然度が最も低かった。音響分析および評価実験の結果においては,学習歴が長くなるほど日本語母語話者の分布に近づき,自然度も高くなる傾向が見られた。中国人日本語学習者の産出する撥音に先行する母音は,中国語の干渉を受け,特に/u/, /e/, /o/が日本語母語話者と異なる音色となってしまう場合があることが音響面,知覚面から裏付けられた。