抄録
近年,移植医療において,移植後虚血再灌流障害に対する水素含有保存液の有用性が報告されている.水素含有保存液をつくる方法として,臓器保存液に100%の水素をバブリングし,水素を保存液中に溶け込ませる方法があるが,この方法では保存容器を開放するためコンタミネーションの危険性があり,安定した水素濃度が得られにくく,さらにバブリングでの気泡による機械的な臓器損傷の可能性もある.また,高濃度の水素ガスは常に爆発の危険性を有する.これらの危険を回避するため,この研究ではMIZ 社が開発したhydrogen rich water bath を用い,そのなかで低温下で臓器を保存液ごと持続的に水素に暴露させ,その効果をラット心移植を用いて検討を行った.ドナーラットから心臓グラフトを摘出し,保存液とともにプラスチックバックに入れ,4℃のhydrogen rich water bath,もしくは恒温水槽に浸漬して保存した.保存時間は同系間移植は6 時間,異系間移植は8 時間とした.保存後のグラフトをレシピエントラットに異所性に移植し,グラフトの再拍動までの時間を計測した.また,再灌流3時間後に心移植スコア,心筋傷害マーカー(CPK,troponin Ⅰ),炎症性メディエーター(IL-6,IL-1b,TNF-a,ICAM,iNOS)の発現量にてグラフトを評価し,比較を行った.同系間,異系間移植のどちらにおいても,hydrogen rich water bath で保存した場合のほうが再灌流後から再拍動までの時間は有意に短くなり,移植後3 時間でのグラフトの心移植スコアも有意な差があった.また,hydrogen rich water bath で保存した場合のほうが再灌流後3 時間での血中のCPK とtroponin Ⅰは有意に低下し,炎症性メディエーターの発現量も有意に低下していた.これらの結果から,hydrogen rich water bath で保存することによって,保存中のグラフトに持続的に水素を付加することができることがわかった.また,グラフトをhydrogen rich water bath で保存することにより移植後虚血再灌流障害を軽減できることがわかった.心移植において,移植後虚血再灌流障害に対するhydrogen rich water bath の有用性を確認できた.hydrogen rich water bath は移植グラフトの保存に有用であると考えられる.