Organ Biology
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機械灌流保存が移植外科学にもたらしたものー臓器保存から臓器創出
松野 直徒石井 大介中條 哲也金子 太樹寺口 博也岡田 陽子鳥海 飛鳥小原 弘道暮地本 宙己稲永 由紀子李 小康酒井 宏水
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2020 年 31 巻 2 号 p. 084-087

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抄録

移植医療の大きな課題の一つであるドナー不足を解決するために,欧米では高齢者,心停止ドナーなどの臓器に対し単純冷却保存ではなくポンプを用いて臓器内に保存液を循環させる機械灌流保存が急速に臨床に導入されてきている.その理由は,灌流保存中に臓器機能(Viability)を客観的に測定して安全な移植手術が可能となること,臓器保存液に酸素や栄養や薬剤を入れることにより機能を改善させ,虚血再灌流障害を軽減することができる事にある.特に,代謝臓器である肝臓は,低温領域や酸素運搬体のない灌流液においてさえ酸素化(Hypothermic oxygenation perfusion;HOPE)することの重要性が近年提唱され,複数の臨床比較試験において証明された.さらに,その有効性は内因性免疫反応の抑制にもあるという新しい概念が提唱された.我々は,ヒト由来ヘモグロビンをリポソーム化した人工赤血球を用い,ブタ肝臓を使用し,人工赤血球含有灌流保存液の有用性を示してきた.近年,常温灌流保存は1週間保存の成功例など,長期間保存が現実味を帯びてきており,その先には障害臓器に対する遺伝子,細胞などの体外治療による臓器創出に拍車がかかるものと考える.機械灌流保存技術は,移植外科領域において保存に留まらず保存免疫ともいうべき領域を開き,臓器修復まで可能性を秘めた技術と考えられるようになった.

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© 2023 日本臓器保存生物医学会
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