今回我々は, 咽頭痛, 嚥下困難を主訴として耳鼻咽喉科を受診したacquired immunodeficiency syndrome (AIDS) に合併したcytomegalovirus (CMV) 感染による下咽頭潰瘍の1症例を経験した。経過中に大量の吐血を認め一時生命の危社機にあったが, 経管栄養により全身状態の改善に努めたところ, 特に抗ウィルス剤を使用しなかったにもかかわらず, 症状および所見とも軽快し, 患者の母国であるタイへ帰国した。近年AIDS患者は日本国内でも増加の一途にあり, 下咽頭潰瘍は稀であるものの, 何らかの症状で耳鼻咽喉科へAIDS患者が初診する可能性は充分に予想されるため注意が必要である。