Q:「初診時に悪性腫瘍が疑わしい患者が来院された際に,検査をどこまで進めるべきか教えてください」
A:回答者 志村 英二 東京慈恵会医科大学附属第三病院耳鼻咽喉・頭頸部外科診療部長
頭頸部がんの診断および治療方針を決定するためには,組織診・細胞診・血液検査・CT・MRI・US・GIFなど必要な検査が多数あります.これらをどの順序で,どこまで進めればよいかというガイドラインやエビデンスはありません.むしろ本当に悪性腫瘍が疑わしいと思った場合には,初診の段階でも上記すべての検査をオーダーすべきだと考えます.
がん診療において意識すべき重要なポイントは「診断から治療までをいかにして迅速におこなうか」であり,専門外来や専門施設へ紹介する前にいたずらに時間を浪費してしまうようであれば,いっそ余計な検査はしない方がよいとも言えます.
現在は通信端末の進歩により,ほぼリアルタイムで身体所見や画像所見などを共有し相談できる環境にあります.悪性腫瘍を疑って迷うことがあれば,情報の秘匿性を担保した上で,まずは上級医や頭頸部がん専門医に相談してみることをおすすめします.
参考までに,当院の初診外来で悪性腫瘍を疑った場合に,最低限この検査はおこなってから専門外来に送ってほしい,とレジデントの先生たちに伝えている検査は,①組織診および細胞診,②腫瘍マーカー,③頸胸部CT,の3つです.若手の先生は「痛い検査は後回し」と考えて①を後回しにする傾向がありますが,①こそ頭頸部がん診療においては初診時におこなえる検査であり,かつ治療方針を決めるにあたり最重要の検査であることを覚えていてください.
側頭骨は蝸牛や前庭といった内耳感覚器,顔面神経や内耳神経などの重要な神経,繊細に連結する耳小骨,脳血流を担う内頸動脈や内頸静脈などを含み複雑な構造をとっている.また耳科手術は鼓室形成術やアブミ骨手術から人工内耳,頭蓋底手術まで手技も複雑で多彩である.このような耳科手術の特性から,手術の実践で修錬を重ねるOn-the-job training(On JT)だけで手術手技を習得するのは困難であり,現在はcadaver surgical training(CST)や3Dモデルを用いたハンズオンなどのOff-the-job training(Off JT)が重要な役割を担っている.
当科では2013年より側頭骨3Dモデルの開発を始め,年々モデルの改良を重ね,現在では光重合式樹脂プリンターで作製した耳小骨を鼓室に組み込み,鼓索神経の走行を再現することで,よりリアルなOff JTが可能となっている.側頭骨3Dモデルは講座主催の“EES Hands-on seminar in Yamagata”で用いているほか,日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会や日本耳科学会主催のハンズオンセミナーや手術手技ビデオライブラリーの構築にも活用されている.3DモデルによるOff JTはリアルに近いトレーニングを安全に繰り返し行うことが可能であり,複雑な耳科手術を習得するために有用である.
体内に残された遺残物により炎症反応が起こり,異物肉芽腫が形成される.ガーゼによる異物肉芽腫は,本邦ではガーゼオーマ,欧米ではgossypibomaと呼ばれている.本邦の報告では,腹部手術後の報告が散見される程度で,鼻副鼻腔領域での報告は極めて少ない.今回我々は,術前に血瘤腫が疑われた上顎洞ガーゼオーマの1例を経験したので報告する.
症例は47歳男性.主訴は鼻閉,嗅覚障害,鼻汁.20年以上前に他院での副鼻腔手術歴があるが詳細は不明であった.内視鏡や画像所見から再発性鼻副鼻腔炎に合併した左上顎洞血瘤腫を疑い,手術を施行したところ,左上顎洞に遺残ガーゼを認め,左上顎洞ガーゼオーマの診断に至った.上顎洞ガーゼオーマと血瘤腫の鑑別において,文献的考察を加えて報告する.
脳血流障害によりめまいを来すことは知られているがその証明は困難である.今回血流障害によるめまいを疑う症例を経験した為報告する.症例は45歳女性.脳底動脈瘤血管内治療を施行後に右延髄梗塞を発症し,左不全片麻痺・右難聴・めまいが生じた.梗塞部位と難聴・めまいの症状が一致せず症状が遷延し当院紹介受診となった.受診時自発眼振はなく,頭振後眼振検査のみで左向き水平回旋性眼振を認めた.純音聴力検査では右500,1,000,2,000,4,000,8,000 Hzでそれぞれ35,35,45,70,90 dBと高音域で閾値上昇を認めた.平衡機能検査ではcVEMPとoVEMPは正常,vHITで右後半規管はcatch up saccadeを伴うgain低下(0.45),右外側半規管は軽度gain低下(0.77),右前半規管は正常下限(0.86)と右後半規管を中心とした障害を認めた.以上より本症例のめまいは,典型的な上下前庭神経支配領域の障害ではなく,血流障害に伴う前庭障害が推測された.発症起点が不明な急性感音難聴やめまいの中には血流障害が原因となる可能性があり,治療や方針の決定において考慮すべき事項である.
再発性多発軟骨炎は多彩な臨床症状を呈し,確定診断に至るまでに時間を要する症例がある.今回われわれは,下気道症状のみを呈し,気管開窓術により摘出した気管軟骨の病理組織検査によって確定診断に至った再発性多発軟骨炎の1例を経験したので報告する.
症例は72歳男性.新型コロナウイルス感染(COVID-19)による肺炎精査のためのCTにて気管および気管支の壁肥厚を認め,肺炎の治療後も壁肥厚の残存および労作時の呼吸困難が遷延した.Gaシンチグラフィーで気管および気管支に限局的な集積を認めたため,精査目的に当科を受診した.気管開窓術により摘出した気管軟骨の病理組織検査にて再発性多発軟骨炎の確定診断に至った.現在,ステロイドの維持療法および免疫抑制剤にて再発なく経過している.
再発性多発軟骨炎は,喉頭や気管の気道軟骨炎により気道閉塞を来しうる疾患のため,早期の診断および治療が重要である.治療にはステロイドや免疫抑制剤を用いるが,確定診断前の使用は組織診断の感度を下げる可能性があり,確定診断前のステロイドの使用は回避することが望まれる.一方,気管病変の組織診断のために気管軟骨の生検が必要な場合,気管開窓術は有用な術式と考えられる.
76歳男性,耳下腺炎が誘因と思われる副咽頭間隙膿瘍の症例報告を行う.右耳下部痛を初発症状とし,前医で右耳下腺炎として抗菌薬の投与を受けた.右耳下部腫脹と開口障害が出現し当科を受診した.LSFXの投与を行い,7日後の再診時,右耳下腺炎の増悪がみられ,造影CTを施行した.右耳下腺下極,下顎骨周囲,副咽頭間隙に膿瘍形成が認められ,入院の上TAZ/PIPCの点滴静注を開始し,入院6日目に退院した.耳性感染症,歯原性感染症は否定的であり,耳下腺炎が誘因となった副咽頭間隙膿瘍と診断した.
近年,人工知能(AI)は医療分野において診断やリハビリ支援など多様な応用が進んでいる.特に画像診断領域ではCTやMRI,内視鏡画像を活用したAI研究が活発で,高精度な診断支援システムが開発されている.耳鼻咽喉科領域においても,真珠腫,頭頸部癌,鼻副鼻腔乳頭腫などを対象に,AIによる自動診断の有用性が報告されており,専門医の診断精度を上回るケースもある.また,音声や重心動揺検査といった非画像データもAIに活用されており,音声障害や前庭障害の評価にも応用が進む.さらに,スマートフォンを活用した構音訓練や環境音評価,自己音声の再現技術への応用も進められており,患者の日常生活を支えるリハビリ支援としての活用も期待されている.近年では,診療情報や音声,画像など複数の情報を統合するマルチモーダルAIの重要性も高まっており,診断精度のさらなる向上が見込まれている.加えて,退院サマリー自動作成など事務作業の効率化や,一般診療での診断支援への応用も進んでおり,医師の負担軽減や働き方改革への貢献も期待される.一方で,耳鼻咽喉科領域では実用化されているAI機器はまだ限られており,研究と実装のギャップを埋める取り組みが求められている.