2021 年 31 巻 3 号 p. 221-224
内耳有毛細胞の不動毛には,細胞質へと伸びる「根」が存在する.これはアクチン線維の束であるが,どのようにして束ねられているのか,その束がどのような機能を持つのか,未知であった.TRIOBPはヒト難聴遺伝子として同定されたものである.抗TRIOBP抗体を作製して染色したところ,これは不動毛の根に局在していた.すなわち「根」の構造や機能に迫る上での初めての糸口であった.精製したTRIOBPはアクチン線維を束ねる生化学活性を示した.さらにTRIOBP欠損マウスを作製したところ根が消失しており,TRIOBPは根の形成に必須であった.この根を失った不動毛はしなりを失い,変性して聾となった.このTRIOBPには複数のアイソフォームがあり,それぞれの機能も明らかとなってきている.