抄録
本邦では筋骨格系に中等度以上の痛みをもつ患者が人口の約15%いるとされている。慢院疼痛疾患に対して様々な治療法が行われてきたが、従来の末梢神経系と筋骨格系に対する治療のみでは疼痛コントロールが十分でない場合も少なくなかった。私はペインクリニックを専門とする麻酔科医として、このような難治性の疼痛患者に対し、脳の認知機能のエラーによって痛みが生ずるという立場から、診療と臨床研究に取り組んできた。脳の認知機能を介した治療の例として、幻視痛の治療がある。四肢切断後に失ったはずの肢が存在するように知覚(幻肢)され、その肢が痛打という幻視痛の状態に対し、鏡を用いた視覚的フィードバックによる幻肢の運動イメージの獲得が疼痛緩和に繋がることを通じて、体性感覚系と運動系の相互連関の破綻が痛みの惹起に関連しているということを明らかにした。今講演ではこのような感覚系と運動系の相互連関がヒト難治性疼痛患者の大脳認知機能に与える影響を、空間認知、注意、合目的的運動の観点によりヒト型ロボットを用いたinsilicoシミュレーションを用いて解析し、さらに運動学習による疼痛治療のメカニズムについて認知神経科学から考察することによって難治性疼痛に対する神経リハビリテーション治療の意義について議論する。