抄録
わが国のパラスポーツにおける競技力向上の支援は,東京2020パラリンピック開催決定を機に,ここ十
数年で大きく進んだ.しかし,その多くがパラリンピック競技に集中していることや,アスリートに比べてコー
チへの支援が十分とは言いがたい点など,現場にはいくつかの課題が残っている.特に,障害特性や競
技特性を踏まえた指導が求められるという中で,パラコーチに必要な能力や育成の方向性が整理されて
いない部分もあり,人材面の課題ともつながっている.
本研究では,国内外の文献(e.g. Allan & Côté,2021;Falcão et al.,2020;水島,2022)を確認しながら,
コーチがどのような経験を積み,どのような形で成長していくのかを検討した.あわせて,関連分野の研究
者との意見交換を行い,成長を捉える際の視点を整理した.
その結果,専門性・対人スキル・内省の三つを軸にしつつ,これらを障害理解の視点で結びつけること
が成長に大きく関わっていることがわかった.また,導入期から熟達期,さらに他者の学びを支える段階へ
と進む流れが確認された.実践共同体やメンタリングは特にその中心に位置し,形式的な研修よりも現場
での学びが成長の方向づけに強く影響していた.一方,医学モデルに偏った教育内容や,障害当事者が
学びの場にアクセスしにくい構造など,環境面の課題も確認された.
本研究は,これらの知見を踏まえ,コーチの成長を支える仕組みづくりの必要性を指摘し,今後のパラ
コーチ育成体系を考えるうえでの基礎的な資料になると考えられる.
本研究は,JSPS科研費23K10670および21K11399の助成を受けたものです.