日本心理学会大会発表論文集
Online ISSN : 2433-7609
日本心理学会第87回大会
セッションID: ITL-002
会議情報

国際賞受賞講演
心理物理学のこれから
西田 眞也北田 亮
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

私はこれまで心理物理学を基本方略として人間の感覚認識情報処理の研究を行ってきた。運動視をはじめ,視覚感覚属性間の相互作用,ものの質感の知覚,時間知覚,マルチモーダル情報の統合やモダリティ間(とくに触覚と視覚)の情報処理の比較,など様々な感覚認知機構を研究テーマとしてきた。人間の認識の研究は脳計測技術や数理モデリング技術の飛躍的進歩により大きく変貌を遂げてきており,心理物理学の相対的なインパクトは下がって来ている。しかし,主観的な知覚を計測する方法は昔と変わらず心理物理学しかない。心理物理学の価値を十分に認識し,方法論を磨いていくことは,心理学関係者の重要な使命である。最近どの分野でもはやっているのがデータ駆動型研究とデジタルツインであろう。前者は従来の仮説検証型と対立するデータを出発点とする研究手法で,仮説検証を後生大事にしてきた結果として再現性問題に苦しんでいる心理学としても無視できない方法論である。ただ,そのためには心理データの規模を飛躍的に増やす必要があり,インターネットを活用した大規模実験などがカギとなる。後者は,実世界のコピーモデルを計算機上に作るという考えである。視覚研究の場合は,画像入力から直接人間の視覚系と一致した出力を直接計算できるような(image-computable)なモデルが視覚系の一つのデジタルツインと言えるだろう。ひとむかし前まではそのようなモデルを作ることは現実的な問題では無かったが,最近は人工神経回路と機械学習の発展により様々なタスクにおいて人間の視覚機能に匹敵する能力を持ったマシンビジョンのモデルができており,それを人間の特性に合わせるという方略が使える。このようなモデルで,過去に報告されてきた多くの心理物理実験のデータや日常場面の知覚すべてを統一的に説明しよう,というのが現在の私の目論見である。このような作業は,過去の心理物理の遺産を未来に継承するための試みであり,human-aligned AIの開発などを通して心理物理学の知を現実社会に還元するための道筋である。

著者関連情報
© 2023 公益社団法人 日本心理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top