抄録
本発表は、第二次世界大戦後のブラジル日本移民社会に見られた「日本人と先住民の近縁性」言説に関連して、当時の邦人社会における勝ち組側の先住民描写を分析することで、ブラジル日本移民社会における同言説の全体像の一端を捉えることを目的としている。
近年、ブラジル日本移民史における勝ち負け抗争について、勝ち組側の行動が「ブラジル社会の抑圧に対して日本移民が抵抗した証」[三田 2018:93]と評価されるなど、第二次世界大戦での日本敗戦後のブラジル日本移民の反応について新たな視点が提示されている。
同時代のブラジル日本移民による反応の一つとして、細川周平は移民知識人の香山六郎による日本語とブラジル先住民語のツピ語との同祖論に注目した。細川は、香山による日本語とツピ語の近縁性の主張について「ブラジルの正式な国民のメンバーとは見なされていない日本人が、実はヨーロッパ人よりも先に住む部族の兄弟であるという政治的な含み」[細川 2008:x]を持つ論であると解釈した。細川は香山論の社会的影響力を否定したが、発表者は香山著書の流布状況、当時の邦字新聞における香山論の発信について確認することで、その社会的影響力への再評価を行った[長尾 2022]。
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