抄録
はじめに
ピウラ県太平洋沿岸地域には先インカ期より 先住民族タリャン(los tallanes)が居住し、モチ ェやチムーに従属しながらその社会文化的影響 を受けてきた。インカ期には、ワイナ・カパック が沿岸地方の諸部族を帰順させて太陽信仰を広 めたが、海岸地帯の先住民族の間では一般にマ マコーチャ(Mamacocha)すなわち「母なる海」 が崇拝されていたことが複数の年代記に記され ている[ガルシラーソ 1986[1963]: 66-67 他]。
他方、当該地域の住民の間では現在、ママコー チャなる語を耳にすることはなく、海が直接的 な信仰対象として語られることもない。このこ とは、インカ期の神格のひとつであるパチャマ マ(Pachamama)が、程度の差こそあれ山岳地方 で今なお信仰されていることと対照的である。 本報告では、海にまつわる信仰の現代的諸相を 解明するための予備的な考察として、沿岸地域 における宗教的信仰の変遷とその実践状況の整 理を目的とする。その一事例として、ピウラ県パ イタ地区(以下、パイタ)及びその周辺村落の漁 師たちから絶大な崇敬を集める聖ペドロと聖パ ブロの祝祭をめぐる習俗と伝承をとりあげる。
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