2015 年 2 巻 p. 11-40
パラリンピックは,1960年にローマで正式に開催されて以来,今やオリンピックに次ぐ2番目に大規模なマルチスポーツイベントとなった。しかし,「レガシー」というコンセプトについて議論されるようになったのは比較的近年のことであり,過去に開催された各大会のレガシーを確認することは容易ではない。大会インパクトの分析は,1988年カルガリー冬季オリンピックの頃からすでに行われていたが,レガシーについて理解するための協調的な取り組みが国際オリンピック委員会(IOC)のもとで行われるようになったのは,2002年にバルセロナでオリンピック・レガシー国際シンポジウム(1984–2000)が開催されて以降であった(Chappelet, 2008)。パラリンピックのレガシーに関する研究はさらに少ないが,現在では,数少ない既存研究を再検討してベンチマークを設定し,状況を改善しようとする試みが進められている。
本稿では,1976年にカナダ・トロントで開催された障害者スポーツの夏季大会,通称「トロントリンピアード」と,2010年にバンクーバーで開催された冬季パラリンピックを事例として取り上げ,カナダの文脈から考察する。一方では保存記録をもとにした学問的見地から,もう一方では,かつてカナダパラリンピック委員会(CPC)会長を務め,1999年から2013年までCPC理事会メンバーであった私自身の経験に基づく現場の見地から,これらの大会のレガシーについて検討する。私はさらに,2015年にトロントで開催されたパンアメリカン競技大会およびパラパンアメリカン競技大会の前理事会メンバーでもあり,同時に故郷カルガリーへの2026年冬季オリンピック・パラリンピック招致を熱望する者の一人として,独特の視点を有している。将来の大会との関連性を踏まえると,過去の大会のレガシーが現在および将来に持つ重要性は大きい。カナダで開催された2大会のレガシーを理解することは,2020年東京パラリンピックに向けた計画策定と大会レガシーの確保を,より効果的かつ効率的なものにすることにつながると期待される。