公共選択の研究
Online ISSN : 1884-6483
Print ISSN : 0286-9624
ISSN-L : 0286-9624
金融グローバル化と公共政策の衰退: 政治経済学アプローチ*
村瀬 英彰
著者情報
ジャーナル フリー

2006 年 2006 巻 46 号 p. 24-32

詳細
抄録

本論文は, 発展途上国の政治構造の現実を考慮に入れて, 国際資本移動の自由化が途上国の公共政策の決定にいかなる影響を及ぼすのかを分析する.途上国では, 資本の所有者である富裕層が政策決定の実権を独占していることが多い.本論文では, こうした非民主主義的な政治構造の下で, 資本移動が自由化されると国内への公共投資が縮小することが示される.公共投資が縮小するのは, 資本移動の自由化の下で, 資本の収益率が国際資本市場で決定されるようになると, 富裕層が国内生産の生産性を高めるインセンティブを失うためである.一方, 公共投資の縮小による国内生産の生産性の低下は, 国際間を容易に移動できない労働のみを生産要素として所有する貧困層の所得と厚生の低下をもたらす.とくに, 閉鎖経済では, 富裕層と貧困層が望む公共投資の水準は一致しうるが, 資本移動が許される開放経済では, 両者が望む公共投資の水準が大きく乖離することが示される.このことは, 資本移動の自由化によって, 富裕層と貧困層の間に公共投資の決定をめぐって階層対立が生まれることを意味する.また, 本論文では, 資本移動が自由化されたとき, 国内生産の生産性の低下に伴い途上国から資本が流出する可能性が示される.したがって, 本論文の分析は, 資本移動の自由化の下で, 資本が資本の希少な途上国から資本の豊富な先進国へ移動するという逆説, いわゆるキャピタルフロー・パラドックスに対しても新たな説明を与えるものとなる.

著者関連情報
© 「公共選択の研究」編集委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top