抄録
直腸腫瘍に対するESDの新たな手技として,胃腫瘍に対して良好な成績をあげたトラクション法である「糸つき鉗子を用いたESD(糸つき鉗子法)」を直腸病変に適用し,その有用性と課題について検討を行った。これはcounter-traction method(トラクション法)の一種であり,糸つきの把持鉗子を直腸内に誘導し,全周切開後の病変を内視鏡と別方向から牽引しつつ,剥離を行う手法である。今回はESD従来法と糸つき鉗子法との比較を,(1)病変の切除長径,(2)切除所要時間,(3)剥離所要時間,(4)偶発症の有無から比較検討した。切除長径では両者に有意差はなかったが,平均切除所要時間は,従来法で48.9分,糸つき鉗子法で29.1分。平均剥離所要時間は従来法で30.6分,糸つき鉗子法で15.5分と,糸つき鉗子法の方が短時間で切除可能と判断された。切除時の穿孔例は従来法,糸つき鉗子法でともに認めなかったが,遅延穿孔例を1例(1.3%)糸つき鉗子法で認め,保存的対応で治癒した。どの手技であれ,切除後の安静保持には十分な注意が必要と考えられた。輸血を必要とするような後出血は認めなかった。今後の課題としては,適応範囲が直腸病変に限られること,糸つき鉗子誘導時の粘膜損傷に注意すること,把持鉗子による病変の損傷に留意することなどが挙げられる。本法は特別な機器の導入が不要という利点もあり,直腸ESDを安全かつ迅速に行う方法として,きわめて有用な手法であると判断した。