症例は63歳,男性。心窩部痛を主訴に近医受診。上部消化管内視鏡検査にて十二指腸球部前壁に隆起性病変を認め,生検でカルチノイドと診断され,加療目的で当科入院となった。病変は通常内視鏡検査で粘膜下腫瘍を呈し,超音波内視鏡検査では第2層に連続し,粘膜下層の中層まで及ぶ径5mmの粘膜下腫瘍であった。周囲のリンパ節腫大は認めなかった。内視鏡的粘膜切除術を施行し,病変は1回で完全切除された。切除標本の組織学的所見では,粘膜内から粘膜下層にひろがる径5mmのカルチノイドで,切除断端は陰性であったが,病変部中心に静脈侵襲(v1)を,病変部近傍にリンパ管侵襲(ly1)を認めた。現在までに局所再発は認めていないが,今後は厳重な経過観察が必要と思われた。