1996 年 48 巻 p. 80-84
大腸sm癌の超音波内視鏡(EUS)を用いたsm浸潤度診断と,粘膜下層への生食水局注法(局注法)により判定したlifting signの有無とsm浸潤度との相関について検討した。対象はEUSを施行したsm癌55病変(sm1 18,sm2 17,sm3 20)と,内視鏡下局注法でのlifting signの判定を行った19病変(sm1 9,sm2 7,sm3 3)である。Lifting signの判定基準は,局注法により腫瘍全体が浮揚するものをlifting sign陽性,腫瘍の一部が浮揚しないものを偽陽性,腫瘍全体が浮揚しないものを陰性とした。EUSによる大腸sm癌の深達度診断正診率は76%(42/55病変)であった。sm浸潤度診断の正診率sm1 50%,sm2 59%,sm3 75%であり,sm浸潤度が深くなるほど診断成績が良好であった。治療法選択という観点からEUS診断について検討すると,sm1の19病変で,EUSにより内視鏡的治療が可能なm癌-sm1と診断できたのは16病変(89%),sm2,sm3の37病変で,外科手術が必要なsm2以深の深達度と判定できたのは33病変(89%)であり,ともに診断成績が良好であった。局注法によるlifting signの有無とsm浸潤度との相関については,sm1のsm癌は全例lifting signが陽性,sm3は全例陰性であった。しかしsm2のsm癌では,lifting signの評価が一定せず境界病変と考えられた。以上の検討より,超音波内視鏡および内視鏡下局注法によるlifting signの判定は,大腸sm癌のsm浸潤度診断さらに治療方針の決定に有用であると考えられた。