岩手県南西部,北上川流域に分布する海成堆積岩に含まれる硫酸塩および硫化物の硫黄同位体比を測定した。外洋で堆積した海成層中の硫化物硫黄は,内湾で堆積した海成層のものよりも対応する海水硫酸イオンとの間の硫黄同位体分別が大きかった。より深い海底で堆積した海成層中の硫化物は浅海で堆積した海成層のものよりも硫黄同位体分別が小さかった。海水の影響のある汽水域もしくは陸水域で堆積した堆積岩の硫黄同位体位分別はほとんどなかった。したがって,岩手県南西部,北上川流域に分布する海成堆積岩に含まれる硫化物に記録された硫黄同位体分別の大きさと,堆積環境の間には密接な関係があると推察される。硫酸酸性の発現と,硫黄同位体比との間には,明瞭な関係を見出すことはできなかった。