静岡県富士山西麓の朝霧高原根原地区には,在来イネ科草本を主体とした半自然草原が分布する。根原地区では,富士由来の溶岩流と天守山地からの沖積堆積物が土壌母材として混在する境界域に,ススキ優占の草本群落(地点1)とヨシ優占の草本群落(地点2)が隣接する地点が存在する。本研究では,上記イネ科草本群落に位置する土壌の断面形態と理化学的特徴を明らかにし,両イネ科草本が分布を異にする要因について考察した。調査地点間で土壌断面形態と理化学性は異なり,地点1は,下層に亜角~亜円大礫が存在し,富士由来火山放出物の再堆積物を母材とした土壌であった。また,日本土壌分類体系(2017)では,厚層アロフェン質黒ボク土に分類された。一方,地点2は39~65 cmに埋没腐植層が観察され,酸性シュウ酸塩溶液可溶のAl,Fe,Si含量,アロフェン含量およびリン酸吸収係数から,火山放出物由来の土壌物質に沖積堆積物が混入して再堆積した土壌であることが示された。日本土壌分類体系(2017)では,埋没腐植質アロフェン質黒ボク土に分類された。また,地点1は地点2と比較して,礫と粗砂含量,表層の飽和透水係数および無機態窒素量が高くなった。一方,地点2は地点1と比較して,交換性カリウム量と可給態リン酸量(ブレイ第二法)が高い傾向であった。以上から,ススキ優占の草本群落とヨシ優占の草本群落は,土壌母材(火山放出物と沖積堆積物)の堆積割合が異なり,その違いに起因する礫と粗砂含量,表層の透水性および可給態養分(P,K,N)の違いにより分布が異なったと考えられた。
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