2013 年 55 巻 1 号 p. 43-53
Ca 拮抗剤による薬物性歯肉増殖症を服用薬剤の変更,歯周外科の施行なしに歯周基本治療のみで改善した 2 症例について報告する。 症例 1:初診時 49 歳,女性。上顎右側臼歯部の歯肉腫脹,疼痛を主訴に来院。1998 年より高血圧症と診断され,Ca 拮抗剤を服用している。初診時,口腔内は歯肉の発赤,増殖を認め,下顎前歯部に著明であった。 症例 2:初診時 63 歳,男性。上顎左側臼歯部の疼痛,歯の動揺を主訴に来院。2001 年より高血圧症,不整脈,脳梗塞と診断され,Ca 拮抗薬を含む 8 種類の薬剤を服用している。初診時,口腔内は歯肉の発赤,増殖を認め,下顎前歯部,上顎左側臼歯部に著明であった。両症例とも主治医に対診するも,他剤への変更は不可能との返信で,口腔清掃指導を中心とする歯周基本治療を開始した。その結果,両症例とも歯周基本治療のみで歯肉増殖が改善し,歯周病安定期治療へ移行した。 ヒトの薬物性歯肉増殖症は,細菌性プラークの関与が大きいとされている。本症例より,プラークを可及的に除去することにより薬剤の変更,歯周外科の施行なしに歯肉増殖を改善する可能性が示された。今後,生活習慣病の増加に伴い,Ca 拮抗薬を含む多剤併用者の増加が考えられる。このような患者に長期に口腔健康支援をするため,ライフステージや全身状態に沿ったセルフケアの支援と,それを補うプロフェッショナルケアが重要であると考えられる。 日本歯周病学会会誌(日歯周誌)55(1):43-53,2013