日本歯周病学会会誌
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歯科衛生士コーナー
SRPの実際
坂井 雅子
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2015 年 57 巻 2 号 p. 107-110

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はじめに

スケーリング・ルートプレーニング(scaling and root planning:以下SRP)は,プラークコントロールとともに歯周治療における基本的処置であり,歯周基本治療のみならず,歯周外科治療,メインテナンスやサポーティブペリオドンタルセラピー(supportive periodontal therapy:以下SPT)でも行われる。そして,SRPは歯周基本治療の根幹を担う重要な施術でありながら,最も難しく熟練を要する処置である。

本誌歯科衛生士コーナーでは,第56巻第3号「SRPの現在を考える」,第56巻第4号「SRPに使用する器具」,第57巻第1号「超音波スケーラーの現在」として,3回に渡り「SRP」について取り上げてきた。そこで本稿では,歯周基本治療におけるSRPの基本的術式と,留意すべき事項について解説する。

SRP前に行うべきこと

1. 歯周組織診査

歯周組織診査を行い,歯肉の炎症の広がりと程度,歯周ポケットの形態と深さ,プラークの付着や歯石の沈着部位と量を把握する。歯肉縁下歯石は歯周プローブやエキスプローラーを用いた触診,および歯肉辺縁にエアシリンジにて圧搾空気を吹きかけて確認し,X線写真によって歯根の近・遠心面に沈着した歯石の位置と量を把握する。

2. 口腔清掃指導

プラーク染色液でプラークを染色し,患者・術者ともにプラークコントロールの状態を把握する。プラークコントロールを1回の指導で習得できる患者はほとんどなく,治療の度にプラークスコアを用いて口腔清掃状態を把握し,プラークコントロールが十分でない部位について補助的清掃用具の導入を含む適切な指導を行う。SRPを成功させるには歯周病の原因と治療法について患者に説明し,プラークコントロールの理解と協力を得てプラークの再付着や歯石の再沈着の予防をすることである。

3. SRPの治療計画

歯石沈着の部位,程度,広がり,歯周ポケットの部位と深さ,歯肉の厚さや性状などを参考にして治療回数を決定する。治療計画に基づいてSRPを実施し,治療の度に前回行った部位の治癒状態と口腔清掃状態を比較検討する。深い歯周ポケットが存在する部位や歯肉の炎症が強い部位では,組織が治癒するまでの時間を要するため,最も病変が認められる部位からSRPを開始する。その際,術後疼痛や,硬い食物が噛みにくいなどの食事への影響を考慮し,左右側に及ぶ処置を避け,上下片顎ずつ分割して処置を進める必要がある。また,患者が歯科治療に対して不安感を抱いている場合や,歯石除去経験が無い場合は,最も病変の軽度な部位から開始し,術中の不快感や出血,術後の疼痛などを軽減できるよう配慮する。

4. 患者の不安と疼痛のコントロール

歯科治療は患者にとって多少なりとも不快感を伴うことから,不安や恐怖心の強い患者に病状や処置内容について説明する際は,不安感を抱かせるような用語は慎む。処置中は痛みを感じることがあれば左手を挙げて合図をするよう予め説明し,器具を取扱う際の音などにも配慮する。また,薬物についてはアレルギーの有無を確認し,必要に応じてアレルギー反応試験を行い,局所麻酔剤を使用する際は使用量と濃度に十分注意する。

5. スケーラーのシャープニング

SRPを成功させるための必要条件として,スケーラーを鋭利にするシャープニングが極めて重要である。スケーラーの刃部が鋭利でない場合,歯石の除去が不十分になり効果的なSRPが行えない。また,歯石自体を滑沢化してしまい,触覚のみで残存歯石を触知することは困難となる。

インスツルメンテーションの基本

1. 患者と術者の位置

術者の作業姿勢は効果的なインスツルメンテーションを行うための重要な因子である。患者・術者ともに処置中の疲労が最小限に留められるよう,術者座位・患者水平位で,施術部位に応じて患者の口腔の高さと術者の位置を合わせる。長時間インスツルメンテーションを行う際は,術者が軽く肘を曲げた時の高さと患者の口腔の位置を合わせると最も疲労しない。

2. 視野の確保と照明

視野の確保と的確なライティングは,インスツルメンテーションの作業効率を上げる。インスツルメンテーション中はガーゼ,綿花などで簡易防湿,必要に応じて止血を行い,視野の確保に留意する。血液や唾液により十分な視野の確保ができない場合は,排唾管の使用やスリーウェイシリンジによるスプレー洗浄をし,バキュームで吸引する。また,歯面が唾液,血液などで湿潤していると残存歯石や粗造面を目視で判定することは難しくなるため,圧搾空気を歯肉辺縁付近に吹きかけて汚物や血液を除去する。SRPの際,ガーゼをキュレットタイプスケーラーの刃部背面で歯肉縁下に挿入して止血した後,直ちに除去すると歯肉縁下歯石を目視で確認できることもある。

SRPの実際

1. 口腔内消毒

殺菌効果のある洗口剤を用いて洗口を行うことで,患者口腔内の感染予防およびエアロゾルによる飛沫感染の予防となる。

2. SRP前の観察

SRP前に口腔内の現状を正確に把握してから処置に入ることが重要である。診査は歯周プローブを用いて,1歯単位で全周に渡って行う。

1)口腔清掃状態の確認

2)歯石の沈着状態

歯肉縁上・縁下の部位と量の把握

3)歯肉の観察

歯肉の色調,形態,性状,炎症の広がりの把握

4)歯周疾患の状態

1) 歯周ポケットの状態

歯周ポケットの深さと形態を把握することによって,スケーラーをどの程度挿入するべきか判断する。ポケット底までスケーラーを挿入し,かつ,過度に歯周組織を傷つけないようにする。

2) 軟組織の硬さ,炎症の存在

プロービング時の出血(BOP)は,ポケット底部における炎症の存在を示す。

3) 根面の状態

根面に付着した歯石や根面の粗造感の有無を確認する。

4) アタッチメントレベル

術前にアタッチメントレベルを把握し,SRP後にアタッチメントゲインが得られたかどうかの評価基準とする。

5) CEJの湾曲と歯根の形態

CEJは一直線ではなく,歯種によって特定の湾曲がある。歯肉縁下での操作は,特に直視することのできないCEJおよび歯根部の形態を理解することが重要である。

3. SRP

術中は,血液および唾液を排除し,施術部位を確認しながら操作する。歯肉縁下歯石は歯肉縁上歯石に比べて歯面に強固に付着している。更に,歯肉縁下は直視できず,術者の手指に伝わる感覚に委ねられているため,歯石や歯根面の粗さの探知,スケーラー刃部の適合性,術中のインスツルメンテーションと除去後の評価を含め,使用しているスケーラー刃部が歯面あるいは歯石に対してどのように関係を保っているか,常に留意して行う。

歯肉縁下歯石を除去する際は,スケーラー刃部先端を歯石縁下にくい込ませるよう少量ずつ除去し,できるだけあらゆる方向にオーバーラップさせて歯根面全体を操作する。使用しているスケーラー,あるいは歯周プローブ,エキスプローラーを用いて歯根面の滑沢度を確認してSRP完了とする。

SRP完了の目安は,インスツルメンテーションの際の擦過音や,歯周プローブ,エキスプローラーに伝わる触覚で判断する。

4. 洗浄と止血

微細な歯石片,歯質削除片が歯周ポケット内に迷入していることがあるため,歯周ポケット底部にまで挿入可能なシリンジを用いて生理的食塩水などで洗浄を行う。洗浄後は,滅菌ガーゼを生理的食塩水で浸し,唇舌側あるいは頬舌側面より挟むように把持して2~3分圧迫し,止血を確認する。

*次回来院時に,前回の施術部位の炎症状態を評価し,炎症が改善されていない部位は再SRPを行う。

SRP後の患者に対する配慮

患者との種々のトラブルを避けるため,SRP後に生じる可能性のある症状を術前に説明し,患者とのコミュニケーションを十分にはかる必要がある。また,術後に生じた症状の変化に対する適切な説明と迅速な対応は,患者との信頼関係を得るだけでなく以後の歯周治療を円滑に行ううえでも重要である。

1. 不快感と疼痛

SRP後に,患者が不快感や痛みを訴えることがある。術後の不快感や痛みの程度は患者によって異なるが一時的なものであり,通常2~3時間で軽減し2~3日以内でほとんど消退する。急性症状を伴った部位や,歯石が多量に沈着した深い歯周ポケットに対してインスツルメンテーションを行った際には,術後疼痛について予め説明する。

2. 知覚過敏

歯肉縁下インスツルメンテーション後に,歯肉が収縮,あるいは退縮し歯根表面が口腔内に露出し,冷水,温水などの機械的刺激に対して知覚過敏を起こすことがある。術後に生じる知覚過敏は一時的なもので,プラークコントロールを励行することで知覚過敏が徐々に軽減することを患者に説明する。

3. 口腔清掃指導

歯周治療ではプラークコントロールが重要であり,歯肉縁下インスツルメンテーション後もプラークコントロールの徹底が必要である。術後,歯肉に不快感や歯の知覚過敏が生じた場合は,弱い力でブラッシングを行うか,軟毛の歯ブラシを使用し,2~3日以内で日常のブラッシングやフロッシングを行うことが出来ることを説明する。

4. 食事

SRPの際に局所麻酔剤を使用した場合は,知覚が戻るまで食事や飲料水の摂取は極力避け,特に咬傷に気をつけるよう指示する。歯石沈着が多量に見られ,かつ深い歯周ポケットのある部位にインスツルメンテーションを行う場合は,術後疼痛や,不快感,食事における咀嚼への影響に配慮をする。

5. 出血

歯周治療開始前に血液疾患や出血傾向の有無を医療面接において把握しておく必要がある。全身的に問題の無い患者においても術前の歯肉の炎症の程度や,術中に不必要に歯肉に損傷を与えた場合に術後出血を見ることがある。もし,帰宅してから出血を認めた場合は出血部位を確認したのち,清潔なガーゼか綿花で患部を圧迫して止血するよう指示する。それでも止血しない場合は速やかに連絡をするよう説明し,適切な処置を施す必要がある。

6. 歯肉膿瘍形成

多量の歯石沈着を伴った深い歯周ポケットのある部位や,糖尿病などの全身的因子のある患者に対しての歯肉縁下インスツルメンテーションで,まれに術後に膿瘍形成を見ることがある。そのような場合は直ちに連絡をするよう説明し,適切な処置を施す必要がある。

7. 歯肉の外観的変化

歯肉縁下インスツルメンテーション後に,歯間部歯肉,辺縁歯肉の収縮,あるいは退縮により歯間空隙があき,歯根の一部が露出することがある。特に,浮腫性の歯肉は線維性の歯肉と比較して術後に生じる歯肉収縮の程度が大きく,外観の歯肉の変化や息漏れ,食物の停滞埋入を生じる可能性があるため,術前に十分な説明をする必要がある。

SRP後の歯周組織評価

1. アポイント毎の評価

SRPは治療計画に従って進められるが,インスツルメンテーション後,2度目の来院時に前回の施術部位の歯肉の治癒の状態を評価しなければならない。歯肉表面をエアシリンジで乾燥後,視診で歯肉の発赤,腫脹を観察する。歯肉の発赤や腫脹などが診られた部位は歯肉縁下に残存歯石があることが示唆されるため,再度,歯周プローブ,エキスプローラーなどで根面の確認後インスツルメンテーションを行う必要がある。口腔清掃状態を確認する際のプラーク染色液の色素により,歯肉の色調を正確に観察することが出来なくなるため,プラーク染色を行う前に評価をする。同様にして来院時に,各ブロックに対してインスツルメンテーションと再インスツルメンテーションを繰り返して,SRPを完了する。

2. 再評価

各インスツルメンテーション後の評価に加え,歯周基本治療終了時に再評価を行う。最終インスツルメンテーションから再評価までの期間は,炎症の程度によりSRP後4~6週目に再評価を行う。再評価は,初診時と同じ内容で診査を行い,チャート用紙に記録し,歯周基本治療の効果の判定を行う。

1) 口腔清掃状態の改善度

プラークコントロールに対する患者のモチベーションと理解度,協力度を評価する。

2) 歯周組織の改善度

歯肉の発赤,腫脹などの消失,改善,歯肉形態の改善,プロービングの深さ,接合上皮の位置,および出血点(BOP)などの変化について評価を行う。

初診時と再評価時のデータを比較し,歯周組織の改善の程度,歯周基本治療の効果判定を行う。

おわりに

SRPは歯周治療のなかでもとても重要な処置であり,かつ高いスキルが求められる。SRPによりプラークリテンションファクターである歯石を除去することで,患者がプラークコントロールし易い口腔環境が作られ,歯周病の治癒に影響を及ぼす。したがって,歯石をしっかり除去することは当然のこと,患者に痛みを与えず,歯や歯肉に対して無駄なダメージを与えないよう,可能な限り侵襲の少ない施術でなければならない。また,観血的処置であるため,全身的既往,疼痛に対する処置,器具の十分な滅菌・消毒などの感染予防対策が重要である。SRP後の抗菌薬,消炎鎮痛薬などの投薬については,必要に応じて主治医と相談し,対応する。

歯周治療を成功に導くために歯科衛生士の活躍が益々期待されている今日,本稿が多くの日本歯周病学会認定歯科衛生士と,それらを目指す歯科衛生士の一助となれば幸いである。

References
  • 1)  特定非営利活動法人日本歯周病学会編: 歯周病の診断と治療の指針 2007, 第1版, 医歯薬出版, 東京, 2007, 19-20.
  • 2)  特定非営利活動法人日本歯周病学会編: 歯周病学用語集, 第2版, 医歯薬出版, 東京, 2014.
  • 3)  特定非営利活動法人日本歯周病学会編: 歯科衛生士のための歯周治療ガイドブック-キャリアアップ・認定資格取得をめざして-, 第1版, 医歯薬出版, 東京, 2009.
  • 4)   伊藤 公一: スケーリングとルート・プレーニング, 第1版, デンタルフォーラム, 東京, 1991, 34-5581-9098-102.
  • 5)   吉江 弘正,  伊藤 公一,  村上 伸也,  申  基喆編: 臨床歯周病学, 第2版, 医歯薬出版, 東京, 2013, 62-71.
 
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