日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周組織の炎症に対するクルクミンの効果
秋月 達也三辺 正人
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2015 年 57 巻 2 号 p. 70-75

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はじめに

歯周病のうち,特に歯周炎は歯周病原細菌に対する炎症性反応の結果として歯槽骨の吸収をはじめとする歯周組織の破壊がおこり進行する疾患であり,炎症をコントロールすることが歯周治療の根幹ともいえる1)。原因除去療法として,歯周病原細菌や汚染根面歯質の除去を行うことを目的としたプラークコントロール,SRP,歯周外科手術などといった機械的な治療法,ならびに局所または全身的に抗菌薬を用いる化学的な治療法が現在の治療法として用いられている。近年では,抗菌療法の他の作用として,炎症を抑えることが組織破壊の進行を抑制するという知見も得られており,細菌を除去することとは別のアプローチでの炎症のコントロールが注目されている2,3)。歯周炎の主たる症状の一つである歯槽骨の吸収は破骨細胞の形成,活性化促進の結果である。また,炎症がある状態での免疫反応の結果としてreceptor activator of nuclear factor-κB ligand(RANKL)の発現が促進されることで破骨細胞の形成,活性化が起こるという報告が多くなされていることからも,骨吸収抑制を目的として炎症をコントロールするというアプローチが重要であることがわかる4)

近年,慢性炎症性疾患に対するポリフェノールの効果が検討されつつあり,比較的安全な治療法として注目されている5)。ポリフェノールの一種であるクルクミノイドに分類されるクルクミンは,植物であるウコンから抽出されるターメリックの主成分であり,古くからその抗菌作用について知られており,研究報告もなされている6)。またクルクミンには抗炎症作用,抗酸化作用を有することから,これまでに癌,皮膚疾患,眼疾患,また炎症が関与する疾患としては,2型糖尿病,リウマチ,膵炎,クローン病などといった領域で研究が進められている7)。一方,これまでにも炎症がその進行に深く関わる歯周炎に関してもin vitro,in vivoでの検討に加えて,臨床研究応用の臨床報告もなされるようになってきており注目が高まっている。本邦においては機能性食品に添加する成分の1つとして注目が集まっている。本稿では,クルクミンの歯周組織の炎症に対する効果について,これまでの研究報告を整理するとともに,今後の展望について概説したい。

1. クルクミン

クルクミンはポリフェノールの一種であり,植物のウコンから抽出されるターメリックの主成分である8)。クルクミンは,19世紀初頭からその存在が知られていたが,構造が同定されたのは,1910年である7,9)(図1)。クルクミンは脂溶性であり水には溶解しづらい。クルクミンを特に経口摂取で応用する際の問題点としてその低い生物学的利用能(Bioavailability)があげられ,これは吸収率が低いこと,代謝されるのが早いことによるものである10)。これに対してこれまでに,代謝抑制を目的としたアルカロイドの一種であるピペリンと同時の摂取や吸収促進のためのリポソーム製剤の応用,細粒化,クルクミンリン脂質複合体の応用などがなされてきた。これらの中には通常のクルクミン粉末と比較して45.9倍の生物学的利用能を示すものもあり,摂取の方法により血中濃度さらには効果に差がでるものと考えられる11)

クルクミンの抗炎症作用に関してはこれまで多くの研究報告がなされている12-19)(表1)。in vitroにおいてAbeらは,Lipopolysaccharide(LPS)刺激によるヒト末梢血単球,肺胞マクロファージにより産生されるinterleukin(IL)-8,monocyte chemotactic protein-1α(MIP-1α),monocyte inflammatory protein-1(MCP-1),IL-1β,tumor necrosis factor-α(TNF-α)がクルクミンの投与により抑制されたことを報告している12)。転写因子では,マウス線維芽細胞のセルラインにおいてクルクミンの投与によりactivator protein(AP)-1の抑制が起こる13,14),nuclear factor-κB(NF-κB)の抑制を介して炎症性サイトカインの産生を抑制する15)ことが報告されている。また,他にもヒト多型性骨髄腫細胞において,クルクミンがsignal transducer and activator of transcription(STAT)-3を抑制するとの報告がなされている16)。このようにクルクミンは炎症応答に関与する転写因子であるAP-1,NF-κB,STATをターゲットとしていることが知られている17)

図1 クルクミンの化学構造式
表1 クルクミンの抗炎症作用

クルクミンがターゲットとする転写因子,サイトカインについて示す。

2. クルクミンの歯周組織に関する研究―in vitroでの検討

クルクミンの歯周組織の炎症に関する研究としてこれまでにいくつか報告がなされている。GUらはヒト単核球細胞を用いてPorphyromonas GingivalisP.g.)由来のLPS刺激時のサイトカイン産生について検討したところ,クルクミンの投与によりTNF-α,IL-1β,MCP-1,IL-6,Prostaglandin E2(PGE2),Matrix metalloproteinase(MMP)-9の産生が抑制されたと報告している20)。また,その際にNF-κBリン酸化の抑制が一部認められたことにより,この炎症性サイトカイン産生抑制に,少なくとも一部はNF-κB経路が関与しているのではないかとしている。Chenらも同様に,マウスマクロファージ細胞株を用いて,P.g.由来のLPS刺激時のサイトカイン産生に関して検討しTNF-α,IL-1βの産生抑制に関してNF-κBの抑制を介していたことを報告している21)。Smithらは歯肉線維芽細胞において,epidermal growth factor(EGF)刺激によるurokinase plasminogenの産生に関するクルクミンの作用について検討しており,EGFレセプターのリン酸化抑制,extracellular signal regulated kinases(ERK),c-JUN N-terminal kinase(JNK)の活性化抑制を介してサイトカインの産生を抑制すると報告している22)。また炎症による骨吸収に関しては破骨細胞を活性化させるRANKLと抑制するOsteoprotegerin(OPG)のバランスが重要であることが知られている23)が,Okahashiらは,P.g.感染刺激により促進される骨芽細胞でのRANKLのmRNAの発現がクルクミンの投与により抑制されることを報告している24)。また,SudaらはIL-1α刺激時の歯根膜由来細胞におけるOPGの産生について検討し,AP-1の抑制を介してIL-1α刺激時のOPG産生を促進したと報告しており25),クルクミンが破骨細胞の形成,活性化のコントロールにも関与する可能性が示唆される。

3. クルクミンの歯周組織に関する研究―in vivoでの検討

クルクミンの歯周組織の炎症に対する影響について,実験的歯周炎を用いていくつかの報告がなされている(表2)。Guimarãeらは,Escherichia coli(E. coli)由来のLPSをラットの上顎後臼歯部口蓋側歯肉に1日3回15日注射することで実験的歯周炎をおこし,コーン油で溶解したクルクミンを1日体重あたり30 mg/kg,100 mg/kgで経口投与し観察した。結果としてクルクミン投与群において採取した歯肉中のLPS刺激によるPGE2, TNF-α,IL-6のmRNAの発現の抑制,タンパクレベルでの産生量の抑制が認められた。また,組織レベルでもLPS刺激による歯槽骨周囲の炎症性細胞浸潤のクルクミン投与による抑制が示されている26)。また同グループの類似の実験で30 mg/kgのクルクミンを投与した際には投与しない群と比べてLPS注射によっておこる歯槽骨吸収が抑制されたとしている27)。しかしながら,Guimarãesらは以前の研究でラットに対しリガチャーを用いて惹起させた歯槽骨吸収について同様に検討しており,その際にはμCT上での骨吸収をクルクミンでは抑制できなかったとしており,炎症の惹起する方法により結果も異なることが想像される28)

表2 クルクミンの歯周治療への応用 in vivo

クルクミンの歯周治療への応用としてin vivoで検討した研究について示す。

4. クルクミンの歯周組織に関する研究―臨床応用

最近では,歯周治療におけるクルクミンの臨床応用に関するRandomized controlled clinical trial(RCT)を用いた研究報告が近年なされるようになってきている(表3)。Bhatiaらは,両側に5 mmをこえる歯周ポケット(PPD)を有する25名の慢性歯周炎患者に対して,SRP後に1%クルクミンゲルを局所投与した際の治癒についてスプリットマウスデザインを用いて臨床的に評価している29)。投与はSRP直後,1か月後,3か月後,6か月後に行っているが,6か月後の評価時にはBleeding on Probing(BOP),PPD,Clinical attachment level(CAL)といった臨床評価項目について,クルクミンゲル投与群では対照群と比較して有意な改善が認められたとしている。また,歯周病原細菌に関しても有意な細菌数の減少が認められたとしている。

Gottumukkalaらは,両側に5 mm以上のPPDを有する60名の患者に対し,SRP直後にクルクミン含有コラーゲンスポンジを応用した際の効果をスプリットマウスデザインにより,クロルヘキシジンチップと比較して検討した。結果として両群においてPlarque Index(PlI),Gingival Index(GI),N-benzoyl-DL-arginine-β-naphthylamide(BANA)test,PPD,CALで術前と比べ有意な改善が認められたが,6か月後の結果は,どの評価項目でもクロルヘキシジンチップが有意な改善であった30)。また,同じくGottumukkalaらはSRPと同時に1%クルクミン溶液でポケット内洗浄を行い,その効果について比較した31)。ポケット内洗浄は7,14,21日後にも行い,6か月間観察した。生理食塩水で洗浄した群と比べ,クロルヘキシジンで洗浄した群,クルクミン溶液で洗浄した群ではBANA testの結果では有意に低い陽性率であったが,PPDの改善はクロルヘキシジンで洗浄した群と比べ,クルクミンで洗浄した群,生理食塩水で洗浄した群では有意に低い値であり,後者の2群間では有意差を認めなかった。

表3 クルクミンの歯周治療への応用 臨床研究

クルクミンの歯周治療への応用として臨床研究で検討した研究について示す。

結論

クルクミンの抗炎症作用を利用した慢性炎症性疾患に対する効果については近年医科領域で多く発表されるようになってきている。歯科領域においても特に歯周病に関する基礎および臨床研究が盛んにおこなわれるようになってきており,その効果に注目が集まっていると思われる。現在のところin vitro,in vivoの研究ではクルクミンの効果が実証されつつあるようであるが,臨床研究はまだまだ数が少なく,質の高いものが少ないためにその臨床的有用性については明確となってはいない。動物実験や医科領域での研究のように,全身投与での検討を行っている文献は現在までのところないのが現状である32)。耐性菌の発生を考慮すると,抗菌薬を用いて炎症を改善することを全ての歯周炎患者に対して行うことは現実的ではなく,耐性菌の発現など副作用の危惧の少ないサプリメントを利用した炎症のコントロールは有望であると考えられる。今後,大規模な多施設RCTを含む質の高い臨床研究によって歯周治療におけるクルクミンの有用性を明らかにしていくことが望まれる。

利益相反

今回の論文に関して,開示すべき利益相反状態はありません。

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