日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周組織再生における脱分化脂肪細胞のポテンシャル
清水 豊丸山 昂介坪川 瑞樹佐藤 聡
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2015 年 57 巻 2 号 p. 76-82

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1. はじめに

現在の再生治療は,細胞基盤の観点から,組織を再構築する能力を有する幹細胞が注目されている。幹細胞には受精卵由来の胚性幹細胞(embryonic stem cells;ES細胞),体細胞由来の体性幹細胞があるが,倫理的な問題から,現在は体性幹細胞が広く臨床応用されている。歯周組織の再生には,1960年代から骨移植術が行われ,1980年代以降は組織再生誘導(guided tissue regeneration;GTR)法,エナメルマトリックスデリバティブ(enamel matrix derivative;EMD)が臨床応用されるようになった。骨移植術は,骨再生を期待できるが,歯周組織再生に必須なセメント質の再生には至らず,GTR法やEMDは,既存の限られた組織の限られた細胞を応用する考えである。そこで,予知性の高い再生を求めた治療法として,骨髄間葉系幹細胞(bone marrow mesenchymal stem cells;BMSCs)を歯周組織再生に応用した研究が広く行われるようになった。BMSCsは,歯周組織再生に有用な細胞源であることが示唆されている1,2)。しかし,BMSCsは,組織採取の際に侵襲性が高く,他の間葉系幹細胞においても異種細胞の混入などの問題点が危惧されている3)

一方,かつて医療廃棄物とされていた皮下脂肪組織は,再生医療における新規の細胞源として注目されるようになった。その中で,脂肪組織より成熟脂肪細胞を分離し,脱分化することで幹細胞と同等の分化能を持った脱分化脂肪細胞(dedifferentiated fat cells;DFATs)を得る方法が報告されている3,4)。DFATsは,脂肪由来幹細胞(adipose derived stem cells;ASCs)やBMSCsと近似した細胞表面抗原発現パターンを示し,脂肪細胞3-5)のみならず,骨芽細胞3),軟骨細胞3),神経細胞6),心筋細胞7),血管内皮細胞8),血管平滑筋細胞9,10)などに分化転換することが知られており,再生療法における新規の細胞源として期待されている。

本稿では,DFATsに関するいくつかの知見やDFATsを歯周組織再生に応用した研究について紹介する。

2. DFATsの特性

脂肪組織は,皮下に存在し,低侵襲的に採取が可能である。DFATsの特性は,終末分化した脂肪細胞を脱分化することにより多分化能を有する細胞へと変化することである。同じく脂肪組織から得られ,多分化能を有する細胞としては,ASCsが挙げられる。ASCsは,脂肪組織をコラゲナーゼ処理し,遠心分離後,下層に集積した間質・血管系画分(stromal-vascular fraction;SVF)を培養することによって得られる。SVFは,ASCs以外の他細胞が混入しており,純粋な細胞群ではないため,純度の高いASCsを得るには,さらに分離を必要とする。一方,DFATsは,遠心分離後上層に浮遊している成熟脂肪細胞を天井培養することにより得られるため,純粋な細胞群を獲得することが可能である。天井培養によりフラスコ上面に付着した単胞性の成熟脂肪細胞は,培養1週程度で細胞質内に大きな脂肪滴を維持しつつ,その周囲に様々な大きさの脂肪滴を有する多胞性脂肪細胞の形態を示す(図1A)。培養1週を経過すると多胞性脂肪細胞は細胞分裂を開始し,培養2週程度で脂肪滴をほとんど有さない線維芽細胞様細胞を形成する(図1B)。成熟脂肪細胞から調製されるDFATsは,幹細胞と比較し,胚性幹細胞マーカーの発現が低く11),様々な系統の組織特異的前駆細胞の特徴を示すため12),分化度が高く,異型性が少ないと考えられる。さらにDFATsは,増殖能が高く,継代を繰り返しても分化能が維持されるため,少量の脂肪組織から大量のDFATsを得ることが可能である3)。このように,DFATsは,組織採取量が微量で済み,煩雑な選別操作なしで純度の高い細胞が得られることから,全身状態が不良な患者や高齢者などからも調製できる優位性がある。これらのDFATsの特性は,より安全で効果的な組織再生を可能にすると考えられる。

図1 DFATsの調製(文献12より引用)

A.天井培養1~2週でほとんどの付着脂肪細胞が単房性を失い,複数の脂肪滴が発現する。その後,1~2週で脂質含有量は減少する。

B.DFATsは,単核で複数の突起を有する線維芽細胞様の細胞体を形成する。

3. DFATsの表現型

DFATsは,ASCsやBMSCsと近似した細胞表面抗原発現パターンを示すことが知られている。われわれは,過去の報告3,13-15)を参考にして,DFATsとASCsにおける細胞表面抗原の発現を比較した12)(表1)。CD13,CD29,CD44,およびCD90といった間葉系幹細胞マーカーは,ASCsと同様にDFATsでも発現を認めた。一方,血管形成に関連する血管内皮細胞マーカー(CD31,CD34)や血管平滑筋細胞マーカー[α-smooth muscle actin(αSMA)]は,DFATsでは発現を認めなかった。ASCsは,継代初期(初代培養から第4継代)において,造血性マーカーが減少し,間葉系幹細胞マーカーが増加することが報告されている16,17)。われわれの研究室では,DFATsは,第2継代から第30継代の間,細胞表面抗原発現パターンの変化が非常に少ないことを確認している。よってDFATsは,ASCsと比較して純度が高く,安定した細胞群であると考えられる。

Onoら18)は,マイクロアレイ解析により,成熟脂肪細胞が脱分化の過程において,MSCs(CD44,CD140a,CD140b,CD146,CD266,CD325,CD332),造血(CD10,CD24,CD39,CD40,CD44,CD49e,CD56,CD71,CD86,CD87,CD109,CD138,CD225,CD232),および骨髄系列(CD10,CD13,CD40,CD44,CD49e,CD54,CD71,CD86,CD87,CD109,CD140a,CD232)に関連するマーカーの有意な増加を示すことを明らかとしている。また,その過程では,脂質代謝に関連する遺伝子の発現が有意に減少するのと同時に,細胞の運動や増殖,形態形成,分化に関連する遺伝子の発現が有意に増加することを明らかとしている。これらのことからDFATsは,成熟脂肪細胞の脱分化の過程で多分化能を獲得する可能性が考えられている。

表1 DFATsとASCsにおける細胞表面抗原発現の比較(文献12より改変引用)

+:発現陽性,-:発現陰性,*:われわれの研究データ,a:文献3,b:文献13,c:文献14,d:文献15を参考にした。

4. DFATsの多分化能

DFATsの多系列への分化能は,これまでにいくつかの研究で報告されている。一般に,MSCsやASCsの多系列への分化誘導は,特定の誘導因子の作用により行われ,多分化能は,alizarin red染色やvon Kossa染色(骨分化),oil red O染色(脂肪分化),alcian blue染色(軟骨分化)などによって評価される。同様に,DFATsもこれらの方法を用いて多系列への分化誘導および多分化能の評価が可能である。

1) 脂肪生成

DFATsの脂肪細胞への再分化は,自発的には生じない。われわれは,DFATsが第30継代後も脂肪滴を細胞内に含むことなく,安定した増殖能を示すことを確認しており,他の報告4)と類似した結果を得ている。DFATsは,リアルタイムPCR解析により,lipoprotein lipase(LPL),leptin,glucose transporter 4(GLUT4)などの成熟脂肪細胞マーカーの発現が消失しており,成熟脂肪細胞と比較し,peroxisome proliferator-activated receptor γ(PPARγ),CAAT/enhancer-binding proteins(C/EBPα,C/EBPβ,C/EBPδ),およびsterol regulatory element-binding protein-1c(SREBP-1c)を含む主要な脂肪生成関連マーカーの発現の減少を認める3)。脂肪分化誘導培養は,デキサメタゾン(dexamethasone;DEX),イソブチルメチルキサンチン(3-isobutyl-1-methylxanthine;IBMX),およびインスリン(insulin transferring selenium X;ITS)といった誘導物質を添加する方法が用いられている3-5)。DFATsは,脂肪分化誘導1週程度で,脂肪滴を確認でき,2,3週以内で大量の脂肪滴を確認できる(図2A)。

図2 DFATsの分化誘導

A.脂肪分化誘導1週(oil red O染色),B.骨分化誘導3週(alizarin red染色),bars=100 μm

2) 骨形成

DFATsは,成熟脂肪細胞には発現がみられないrunt-related transcription factor 2(RUNX2)やsex determining region Y-box 9(SOX9)といった骨や軟骨の初期分化マーカーの発現を認める3)。このことからもDFATsは,間葉系前駆細胞の性質を有していることが考えられる。骨分化誘導培養は,DEX,IBMX,ITSに加え,β-グリセロリン酸(β-glycerophosphate),L-アスコルビン酸(L-ascorbic acid-2-phosphate)を添加する方法が用いられている3)。DEXは,PPARγ,PPARγ1,およびPPARγ2を刺激するため,骨分化誘導におけるDEXの量は,一般に脂肪分化誘導よりも非常に少ない。またDFATsの骨分化は,オールトランスレチノイン酸の作用によっても誘導が可能である19)。DFATsは,骨分化誘導3,4週程度で,alizarin red染色,von Kossa染色,およびalkaline phosphatase染色により石灰化結節の形成を確認できる(図2B)。

3) 血管形成

脂肪組織は,主に成熟脂肪細胞や結合組織,ASCs,血液由来細胞,血管細胞により構成されている20)。脂肪細胞と血管内皮細胞は,脂肪系列細胞という共通の前駆体を有することが知られており8),血管新生との密接な関連性が示唆されている21)。血管の内腔を被覆する血管内皮細胞は,血管の緊張22)や血液凝固の調節23),血管新生24)などの機能を有し,血管の恒常性を維持する役割を担っている。血管内皮細胞への分化誘導には,線維芽細胞増殖因子2(fibroblast growth factor 2;FGF2),上皮細胞増殖因子(epidermal growth factor;EGF),血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)などの血管形成因子を添加した培地が用いられることが多い。その中でFGF2は,血管内皮細胞の誘導に重要な増殖因子であり,血管形成および脈管形成に重要な役割を果たすことが知られている25,26)。DFATsは,これらの増殖因子を含んだ血管内皮細胞誘導培地で培養することにより,血管内皮細胞マーカーであるCD31,von Willebrand factor(vWF),ulex europaeus agglutinin 1(UEA-1)の発現を確認できる(図3)。

またDFATsは,血管周皮細胞様の特性を有するとの報告もある12,27)。血管は,当初は血管内皮細胞のみで構成され,間もなく血管壁細胞によって囲まれ28),血管内皮細胞と血管壁細胞(大血管では血管平滑筋細胞,微小血管では血管周皮細胞)の相互作用により成熟化する29)。この微小血管の成熟安定化に関与する血管周皮細胞は,脂肪生成,骨形成,および軟骨形成のポテンシャルを有すると報告されている30-32)。DFATsの血管周皮細胞様の特性は,脂肪組織内における微小血管網と成熟脂肪細胞の相互作用に由来している可能性がある12)

図3 DFATsの血管内皮細胞への分化誘導(文献35より改変引用)

A.通常培地にて培養,B.血管内皮細胞誘導培地で1週培養,bars=50 μm

5. 歯周組織再生への応用

DFATsは,Yagiら4)により新規の細胞として報告され,Matsumotoら3)により再生医療への有効性が報告されている。DFATsに関する研究は,医科領域で数多く行われており,DFATsの多分化能を用いて,組織再生へ応用する試みがなされている。

近年では,歯科領域において,DFATsを用いた再生医療研究が行われている。これまでに,ラット由来DFATsを歯周組織再生に応用した研究では,DFATsの移植により,歯槽骨のみならずセメント質様構造の新生を認めたことから33),DFATsは歯周組織再生療法における新規の細胞源として期待できる。またDFATsは,歯根膜由来幹細胞(periodontal ligament stem cells;PDLSCs)との共培養により,RUNX2の発現の増加を認め,PPARγ2の発現の減少を認めた34)。すなわちDFATsは,PDLSCsの作用により,脂肪生成遺伝子の転写機能が低下する一方,骨分化を促進することが遺伝子レベルで確認された。したがって,DFATsとPDLSCsの共培養は,歯周組織再生療法において歯槽骨再生を促進する新規の細胞基盤の治療法となる可能性がある。さらにDFATsは,歯肉由来血管内皮細胞との共培養により,血管周皮細胞マーカー[neuron-glial antigen 2(NG2),αSMA,CD146]の発現が亢進することが明らかとなっている35)。歯周組織では,PDLSCsが血管周皮細胞のように歯根膜微小血管周囲の領域に局在し,歯周組織の創傷治癒や再生の機能を果たしているとの報告がみられる36)。DFATsは,歯肉由来血管内皮細胞が放出する増殖因子の作用により,血管周皮細胞への分化が誘導されることから,歯周組織の微小血管を構造的,機能的に支持し,歯周組織の創傷治癒や再生に寄与することが考えられる。

6. おわりに

DFATsは,歯周組織再生療法における細胞源となりうる可能性を秘めている。しかしながら,歯周組織はセメント質,歯根膜,歯槽骨,歯肉から成る複雑な組織であるため,各組織を形態的かつ機能的に再生するためには,さらなる解析が必要である。また,細胞移植に際しては,脂肪採取の部位や適当な足場の選定などが今後の課題といえる。

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