日本歯周病学会会誌
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症例報告レビュー
広汎型重度慢性歯周炎患者に根面デブライドメントを行い改善した1症例
東 克章
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2015 年 57 巻 2 号 p. 83-89

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緒言

歯周病治療の基本は,原因である歯肉縁上縁下の細菌性バイオフィルムを除去することである。歯肉縁上バイオフィルムは患者による口腔清掃(ホームケア)で,一方歯肉縁下バイオフィルムは歯科医師や歯科衛生士が行うスケーリングとルートプレーニング(以下SRP)で除去される。SRPとは,歯周組織を治癒に導くような歯根面にすることを目的に,細菌性バイオフィルムと歯石を除去するばかりでなく,汚染された歯根セメント質又は象牙質までも除去すること(ルートプレーニング)であった。

ルートプレーニングを行う根拠は,本来,細菌性のエンドトキシンがセメント質内に侵入しているという考え方に基づいていた1,2)。この概念は,後になってエンドトキシンは根面にゆるく付着しているにすぎず,セメント質内に深く入り込んでいるのではないということを示す実験研究データにより反証された3,4)。このことから,過度のルートプレーニングによって歯質を除去することは歯周炎の治療にとって必要不可欠のものではないと言われるようになった5,6)。実際Moore3)らによると,バイオフィルムで汚染された歯根を水洗しながらブラッシングすると,エンドトキシンの99%を除去することができた。つまり,歯根歯質の除去を最小限にするような器具であり,しかもバイオフィルムを破壊し歯石を効果的に除去するものでなければならない。この点において各種手用及び電動器具を使用し歯根歯質の除去を比較したデータによると7-9),根面デブライドメントにはピエゾエレクトリックの超音波スケーラーの使用が好ましいという結果が得られた。

そこで今回,歯周基本治療として,スケーリングとルートプレーニングに代わる根面デブライドメント(バイオフィルムを除去すること)で非外科的に治療し良好な結果を得た広汎型重度慢性歯周炎の一例を報告する。

症例

患者:43歳,女性

初診:2009年2月

主訴:噛むたびに歯が動いて,しっかり食事することができない。

家族歴:父親が糖尿病で歯周病も有していたが他界している。実兄も歯周病に罹患している。

全身既往歴:特記事項なし。

口腔既往歴:10年前より歯肉の腫れと出血を繰り返していたが,痛みがないので放置していた。2年前から歯が動いて食事しづらくなってきた。歯科を受診するたびに,抜歯して総義歯にすることを勧められたので,治療をためらっていた。1ヶ月前に歯冠補綴してあった17,16が自然脱落した。患者の母親のかかりつけ歯科医から当院を紹介され来院した。

1. 現症

1) 全身所見

全身状態や栄養状態は普通で,飲酒や喫煙の既往はない。

2) 局所所見

歯列,咬合所見:全顎にわたり歯周組織の破壊が高度であり,歯の病的移動により11が挺出しており,対合の下顎前歯部には叢生がみられた。右下と左上のブリッジは対合歯と十分な咬合接触が得られていない。臼歯咬合関係はアングルI級で,側方運動は左右とも,グループファンクションドオクルージョンであった。

歯周組織検査所見:全顎的に歯頚部,歯冠部に多量の歯垢および歯石の沈着を認め,周囲歯肉はそれに伴い高度に発赤,腫脹していた。全ての歯でプロービングデプスは4 mm以上であり,プロービング時出血していた。全ての歯が咬合時に動揺していた。47,45,44と24,25,26はブリッジで補綴してある。36,37には根分岐部病変1,2度を認めた。付着の喪失は極めて大である。

X線所見:全顎的に重度の水平型骨透過像と局所的に楔状の骨透過像を認め,なかでも26,38,47はそれが根尖近くまで達していた。つまり全歯にわたり骨吸収が大きく,残存骨量が極めて少ない状態であった。又それと同時に全根面に多量の歯肉縁下歯石が観察された(図1)。

病因

全身的リスク因子:遺伝的要因

局所的リスク因子:プラーク

図1

2. 臨床診断

広汎型重度慢性歯周炎

年齢も若く全顎的には付着の喪失が大きいが,プラークや歯石が多量に沈着していることから,急速破壊性歯周炎とは診断をつけなかった。

3. 治療目標,治療計画(初診時)

治療目標

これほど重度であれば他院で総義歯にと言われても無理はないと思ったが,患者はできるだけ残せる歯は残して自分の歯で食事をしたいという強い思いがあったので,それに応えられるような治療目標を模索した。最終的には,患者合意のもと固定性の修復物で補綴することにした。そのためには従来の治療法であるSRPや全顎的な歯周外科を行うと歯が脱臼し抜歯になるほど重度に進行していたので,ピエゾエレクトリックの超音波スケーラーで歯に外傷を与えないよう慎重にスケーリングと根面デブライドメントを行うこととした。

治療計画

1) 歯周基本治療:モチベーション,OHI,スケーリング,根面デブライドメント,26,27,38,47抜歯(動揺度3度で付着の喪失大である)

2) 再評価

3) 上下顎にクロスアーチの暫間ブリッジ装着

15,14,13,12,11,21,22,23,24(上顎)

45,44,43,43,41,31,32,33,34,35(下顎)

4) 歯周外科(全顎)

5) 再評価

6) 最終補綴(上下顎の暫間ブリッジをクロスアーチブリッジに移行させる)

7) SPT(3ヶ月に1度行う)

治療経過(治療計画の修正)

1) 歯周基本治療:モチベーション,OHI,暫間固定,スケーリング,根面デブライドメント,26,27,38,47抜歯

多数歯が動揺している場合は,まず先に全部被覆冠タイプのテンポラリークラウンで連結して歯周基本治療を行うが,本症例では,初診時に形成ができないほどすべての歯が動揺していたので,まず接着性レジンにて暫間固定を行った。その後スケーリングと根面デブライドメントで治療することで症状は劇的に改善していった。

2) 再評価

3) 歯周外科(43,44は動揺がなく安定したが5 mm以上のポケットとBOPが残存したためにそこだけウィドマン改良法を行った。)

4) 再評価

5) 歯周補綴

15,14,13,12,11,21,22,23,24支台で25延長のクロスアーチブリッジ

歯周基本治療後の再評価後15から前方の歯を順次形成し暫間クラウンで連結しながら患者の咀嚼機能を観察した結果,全歯連結してクロスアーチスプリントすることで快適に咀嚼することができるようになった。

全歯まだ動揺していたので脱臼しないように細心の注意を払って形成し暫間クラウンを作成した。

上顎はクロスアーチスプリントを行うことによって回転軸を3本にし,側方力を緩和,咀嚼時のフレアアウトを阻止したことで結果として安定した咀嚼機能を得ることができた。一方下顎は暫間固定も行わずにすむほど噛むことができるようになった。

6) SPT

患者は元来,プラークコントロールがうまくできていなかったので,後戻りしないよう来院間隔を1ヶ月毎と決めてSPTを行うことにした(図2,図3)。

図2
図3

考察

今回,広汎型重度慢性歯周炎患者に対して,歯周基本治療としてピエゾエレクトリックの超音波スケーラーでスケーリングと根面デブライドメントを行った。その結果,歯肉に炎症があることを示すプロービング時の出血をなくし,プロービング値を4 mm以下に減少させることができた。さて患者自身が歯肉縁上のプラークコントロールとして正しく口腔清掃を行うことは,歯周疾患の予防や治療上最も重要である10)。しかし歯肉縁上プラークがついている状態で,術者が徹底的にポケットデブライドメントを行った場合は,治療前の歯肉縁下細菌叢が歯肉縁下に4~6週以内に再確立される11,12)。当然ながら,治療時にプラークが多量に付着している状態では,歯肉縁下のスケーリングと根面デブライドメントは行わないことにした。その際は再度のモチベーションと口腔清掃指導,歯肉縁上のプロフェッショナルトゥースクリーニング(PTC)を行った。

ルートプレーニングでセメント質を除去した場合,歯根の象牙質知覚過敏症を引き起こす可能性がある。歯肉組織は歯周治療後の治癒中にしばしば退縮し,器具操作した歯根表面の一部が口腔内環境にさらされる。つまりセメント質の除去により象牙細管が露出し,細菌やその代謝産物が歯髄に入る通路の入り口となる13)ばかりでなく,冷温,接触,乾燥,刺激等に対して歯根が過敏になる。手用器具でSRPしたのと比較すると,ピエゾエレクトリックの超音波器具はこの知覚過敏症の発生率が低くなる14,15)。さらに根面デブライドメントは痛みが少ないため,ルートプレーニング時に使用する局所麻酔剤を減らすことができるという利点を併せ持っている。以上のことを考え合わせると,セメント質には2つの大きな役割がある。1つは線維性付着である骨縁上線維群と歯根膜線維を入れていることで歯を歯槽窩内に安定させていること,もう一つは象牙質を保護していることである。従ってセメント質を除去することはできるだけ避けるべきであろう。本症例もセメント質を残す視点からルートプレーニングではなく根面デブライドメントを行った。Wennströmら16)によると,ピエゾエレクトリックの超音波スケーラーで1時間で行うフルマウスのスケーリングと根面デブライドメントは,口腔を4分割して4回3時間で行うSRPと比べて治療効果は変わらないことを報告している。又Busslingerら8)はピエゾエレクトリックの超音波スケーラーでスケーリングと根面デブライドメントを行うのに必要な時間は,手用スケーラーで行うのと比較して短いことを示した。さらに,根面デブライドメントのための薄い歯周プローブ様のチップ(EMS社製PSチップ)が根面を傷つけず,他の超音波用チップや手用スケーラーと比較して深い歯周ポケットへの到達性が良かった17,18)。そして患者に対しては,歯周基本治療の頻度を少なくし,時間も短縮することができるという恩恵をもたらす。

初診から1年半で最終補綴を行い現在SPT中である。治療後5年経過したが,下顎は連結する必要もないほど安定している。咬合力が上顎は唇頬側回転方向に,下顎では歯軸方向に向かうことによるのではないだろうか。

他医院で総義歯にすることを勧められたそうであるが,歯を全部喪失した場合は経年的に歯槽骨は吸収してしまい,薄く細い顎骨だけになる19)。さらには上下顎の関係がアングルIII級となり義歯の安定が得にくいと思われる20)。又インプラント支持の義歯にする場合は,天然歯でもこれだけ歯周病が進行しているのでたとえインプラントにしたとしても予後に不安が残る21)

以上からできるだけ歯を残して修復治療計画を立てる意義は大きいと思う。歯を残すことは歯根膜を残すことであり,極めて少ない付着量であっても歯根膜の感覚受容器は十分に機能を果たすことができる。

ショートアーチのクロスアーチブリッジであるがメタルフレームを厚くし臨床歯冠を長くとること,またできるだけ生活歯とすることでブリッジ自体の破折や脱離及び歯の破折が起きないようにした22)

近年Berglundhら23)は循環血中と重度歯周炎病変部に存在する自己反応性のB1細胞に着目した研究において,易感染性の重度歯周病患者では健常者と比べその数が多いことを見出した。その他遺伝的又は全身的問題と歯周病との関係が多く取りざたされているが,本患者は家族歴と重症度から遺伝的リスク要因を持っている可能性があるが,バイオフィルムや歯石が多量に付着しており,歯周治療に対しては大変反応が良かったことから安堵している。今後は今以上に歯肉縁上プラークコントロールとSPTの強化を図りたいと思っている。

患者は顔色も良く食事も順調で,治療効果に大変満足している。

References
 
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