日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
歯周病における骨破壊メカニズム~破骨細胞を形成・活性化する因子~
臼井 通彦花谷 智哉森谷 友貴佐野 孝太朗有吉 渉西原 達次中島 啓介
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2015 年 57 巻 3 号 p. 120-125

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1. はじめに

歯周病は歯周病原細菌によって引き起こされる炎症性疾患であり,炎症の増大と慢性化に伴い骨組織(歯槽骨)が破壊される。歯周組織には,他者である歯周病原細菌の侵入に対する免疫機構が存在する。自然免疫は,歯周病原細菌のような病原体に対して,マクロファージや好中球のような食細胞が貪食することにより排除するように働く。一方,もう1つの免疫機構である獲得免疫では,一度,感染した病原体や類似の病原体に対して,抗原提示細胞である樹状細胞などがその侵入を感知しT細胞やB細胞を活性化させ,抗体産生というプロセスを経て,病原体に対応する。しかし,歯周病原細菌による感染が微弱ながらも長期にわたり継続されると,宿主の自然免疫・獲得免疫は破綻し,骨組織破壊を含む組織破壊に転じる。

骨破壊には破骨細胞が必須である。造血幹細胞由来の破骨細胞前駆細胞が分化し,破骨細胞が形成される。さらに,破骨細胞が活性化し,骨芽細胞の形成する骨量を破骨細胞による吸収量が上回ることにより骨量の減少が生じる。歯周病のように炎症性骨破壊を伴う疾患には骨粗鬆症や関節リウマチなどがあるが,それぞれの病態において炎症性サイトカインは骨芽細胞をはじめとするRANKL(receptor activation of nuclear factor-kB ligand)産生細胞に働きかけ破骨細胞の分化・活性化が生じる。しかし,歯周病ではこのメカニズムに加えて,歯周病原細菌のもつリポ多糖(lipopolysaccharide:LPS),ペプチドグリカン(peptidoglycan:PGN)や咬合力(メカニカルストレス)が破骨細胞を活性化し,歯槽骨を破壊する。

本レビューでは,歯周病において破骨細胞を活性化するメカニズムに着目し,最新の知見をもとに概説する。

2. 破骨細胞とOsteoimmunolgoy(骨免疫学)

破骨細胞はその前駆細胞同士が融合した巨大な多核細胞であり,口腔内では歯周病による骨組織破壊,歯の萌出や癌細胞の浸潤の際の骨吸収を担っている。破骨細胞は波状縁と呼ばれる細胞構造を有し,酸とプロテアーゼを産生・分泌することにより,石灰化した骨基質やその中に存在するコラーゲンなどの蛋白質を分解する。破骨細胞の分化には破骨細胞前駆細胞がRANKLを産生する細胞と接触し,受容体であるRANKにその分化誘導シグナルを受け取ることが必要である1)。このRANKLを産生する細胞として,当初は骨芽細胞2),T細胞3)などが知られていたが,その後に滑膜線維芽細胞4),軟骨細胞5),骨細胞6)などでも産生されていることが明らかになってきた。

歯周組織においては歯槽骨内の骨芽細胞に加え,歯根膜細胞7),セメント芽細胞8)などにその発現が認められている。我々はさらに歯肉上皮細胞にもRANKLが発現していることを明らかにした(図19)。これらRANKLを産生する歯周組織構成細胞が実際の歯槽骨破壊に関与しているかは現在のところ不明ではあるが,今後の研究の進展により歯周病治療のターゲットになりうる可能性がある。

上述したようにRANKLは破骨細胞分化に必須な因子であるが,元来,T細胞に発現する樹状細胞の活性化分子として免疫学においてすでにクローニングされたサイトカインであった。骨代謝と免疫系はこのように骨髄の微小環境や,炎症性サイトカインやシグナル伝達分子など多くの制御因子を共有し,密接に関係している。この関係に着目したosteoimmunology(骨免疫学)という学問体系がNature誌に報告されたのが2000年であった10)。歯周病原細菌による感染より免疫機構が働き,その結果として歯槽骨破壊が生じる歯周病はこの骨免疫学のターゲットとなる疾患の1つであり,骨免疫学の発達とともに新たな展開が期待されている。

図1 マウス歯周組織におけるRANKL発現(免疫染色)

歯根膜,歯肉結合組織に加え,歯肉上皮においても,RANKL発現が認められる。

B:歯槽骨 D:象牙質 PL:歯根膜 GE:歯肉上皮

3. 歯槽骨破壊のメカニズム

① 免疫系を介した破骨細胞形成のメカニズム(図2左

歯肉縁下ポケットにバイオフィルムが形成されると,Porphyromonas. gingivalisP. gingivalis)に代表されるような歯周病原細菌やLPS, PGNなどの細菌性因子の刺激によって,歯肉結合組織中でTリンパ球の幼若化と抗原反応性Th1クローンの増殖が始まる。抗原提示細胞である樹状細胞は,歯周病原細菌由来のLPSや細菌のDNAの刺激を受けることにより,Toll-like Receptor(TLR)4, TLR9などの受容体を介して成熟・活性化し,Interleukin(IL)-12を産生することでTh1細胞を優位に誘導する11)。クローン化されたTh1細胞からはIFN-γ, IL-1β, TNF-αなどの炎症性サイトカインが分泌される。活性化されたマクロファージはIL-1β, Tumor necrosis factor(TNF)-α, IL-6, IL-23などの炎症性サイトカインやプロスタグランジンE2(PGE2)を産生し,IL-23はTh17への分化を誘導し,炎症性サイトカイン誘導因子であるIL-17を産生させる12)。PGE2は血管透過性の亢進に加えIL-1β, IL-6が様々なケモカインの産生を介して白血球の遊走を促進することにより,炎症反応が歯周組織局所に成立する。

マクロファージ,Th1, Th17などによって産生されたIL-1β, TNF-α, IL-6, PGE2, IL-17などが歯周組織を構成する骨芽細胞や歯根膜細胞に作用し,RANKLの発現・産生を促し破骨細胞前駆細胞の受容体RANKとこれらRANKL産生細胞が結合することにより,破骨細胞の分化・形成が生じる。こうして形成された破骨細胞はさらに,IL-1β, TNF-αなどの修飾をうけながら活性化し,歯槽骨を吸収するのである13)

図2 口腔内細菌による破骨細胞形成・活性化のメカニズム

サイトカイン産生によって修飾をうける免疫系を介した影響とLPS,PGNのような細菌因子による細菌の直接的な影響の二面性がある。

② 歯周病原細菌因子の直接的な関与による破骨細胞形成のメカニズム(図2右

歯周病原細菌の菌体成分・分泌因子は,前述したように免疫を介したメカニズム以外に,直接,破骨細胞の形成を促進し,歯槽骨破壊に関与することが知られている。本レビューでは,LPS, PGNに加え,P. gingivalisのもつプロテアーゼ・ジンジパインのユニークな働きについても紹介する。

1) LPS

LPSはグラム陰性細菌の細胞壁構成成分であり,リピドAと呼ばれる脂質に糖鎖が結合している。細胞内毒素(エンドトキシン)の本体でもあり,単球や好中球の細胞膜上でCD14やTLR4と結合して免疫系シグナルを活性化し,炎症性サイトカイン産生に関与する。その一方で,LPSは直接,骨代謝を制御する骨芽細胞・破骨細胞前駆細胞に作用して,破骨細胞形成を促進することが報告されている。骨芽細胞ではLPSはTLR4を介して破骨細胞形成に必須の因子であるRANKLの発現・産生を誘導し,破骨細胞形成を促進する14,15)。破骨細胞前駆細胞も骨芽細胞同様にTLR4を有する。破骨細胞前駆細胞をLPS単独で刺激しても破骨細胞は形成されないが,RANKLにて前処理をしておくとLPS刺激によって破骨細胞が形成される。(図3)。また,LPSは破骨細胞のアポトーシスを阻害して,延命を強力に促進することも知られている16)

図3 LPSによる破骨細胞形成

マウス骨髄由来破骨細胞前駆細胞をM-CSF存在下で培養し,LPS(5 ug/ml)単独で刺激しても破骨細胞は形成されない。

一方,RANKL(50 ng/ml)で20時間前に処理するとLPS(5 ug/ml)によって,3日後に破骨細胞形成が観察された。

2) PGN

PGNはペプチドと糖からなる高分子で,NアセチルグルコサミンとNアセチルムラミン酸のペプチド結合したものが基本重合単位である。細菌の細胞壁を構成し,LPSとは異なり,グラム陽性・グラム陰性双方の細菌が有している。LPSがTLR4を介するのに対して,PGNはTLR2を介した細胞内シグナリングでNF-kBを活性化することが知られている。破骨細胞前駆細胞はTLR2を有し,PGNで処理すると,破骨細胞が形成される17)。さらに,マウスを用いたin vivo実験においても,LPSと協調して働き,破骨細胞活性化による歯槽骨吸収を引き起こすことが報告されている18)

3) ジンジパイン

ジンジパインはP. gingivalisの産生する主要なプロテアーゼであり,ペプチドの切断部位からLys特異的ジンジパイン(Kgp)とArg特異的ジンジパイン(Rgp)に分類される。KgpとRgpは相互に協力しながら,生体タンパク質の分解を引き起こし,宿主細胞に障害を与え,歯周病に関連する様々な病態を生み出すことが知られている。昭和大学・上條らのグループは両ジンジパインを骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞の共培養系の破骨細胞形成アッセイに加え,破骨細胞形成に対する直接的な影響について検討した。Rgp処理では破骨細胞数に変化が見られなかったが,Kgp処理により破骨細胞形成が促進されることが明らかとなった。破骨細胞形成の促進のメカニズムは非常にユニークであり,Kgpが直接,破骨細胞に作用するのではなく,骨芽細胞の産生する破骨細胞抑制因子のオステオプロテジェリン(OPG)を分解するために,破骨細胞の形成促進が生じることが報告されている19,20)

③「力」による破骨細胞形成のメカニズム

私たちの身体は,常に外界から機械的ストレス(メカニカルストレス)を受けており,そのストレスを認識,応答し恒常性を維持することで生存している。宇宙飛行士の骨量が宇宙(無重力)での滞在により減少したり,口腔内においても抜歯後に抜歯部付近の歯槽骨が吸収することから,骨(骨量)の恒常性の維持にこの「力」,メカニカルストレスが必要であることがわかる。近年,この詳細なメカニズムが解明され,骨に含まれる骨細胞がメカニカルストレスを感受しRANKLを発現・産生することにより破骨細胞を形成し,骨を作り変える指令をだしていることが明らかとなった21)

咬合性外傷のみによって歯周組織(歯槽骨)の破壊が生じないことは,Ericssonらの研究により示されている22,23)。しかし,一度,プラーク・細菌性因子に惹起された歯周炎が生じると,早期接触やブラキシズムなどの外傷性咬合により急速に歯槽骨吸収が引き起こされる。歯周組織におけるメカニカルストレスによる骨破壊において,特徴的なのは歯根膜細胞の存在である24)。通常,長管骨では骨芽細胞の産生するRANKLが破骨細胞を形成させるが,歯周組織においては歯根膜細胞の産生するRANKLも破骨細胞形成に関与することが報告されている。ラット歯周組織にLPSによる炎症を惹起し,これに咬合性外傷を生じさせた際に骨芽細胞のRANKL産生に有意な差は認められなかったが,RANKLを産生する歯根膜細胞数が増加していることが報告されている25)。歯周組織には歯根膜細胞以外にもセメント芽細胞,歯肉線維芽細胞,歯肉上皮細胞などRANKLを産生する細胞が存在し,これらの細胞の関与も今後,明らかになるであろう。

4. おわりに

本レビューで述べたように,破骨細胞を形成・活性化するのは,細菌因子と力(メカニカルストレス)であり,長い間,歯周病治療として行われてきた「細菌(炎症)」と「力(咬合力)」のコントロールがいかに妥当な治療法であったかを示している。プラークコントロール・スケーリング・ルートプレーニング・咬合調整・習癖の除去などの歯周基本治療によってこれらの因子を除外することは破骨細胞の形成・活性化を抑制し,歯槽骨吸収を抑制するのに有用であるといえよう。

骨粗鬆症のような長管骨や椎骨の骨量減少やリウマチ関節炎における骨破壊同様に,歯周炎に伴って生じる歯槽骨破壊には破骨細胞が関与している。そのため,新たな歯周病の治療方法として,破骨細胞をターゲットとしたこれらの治療薬の応用が考えられてきた。ビスフォスフォネートは破骨細胞にアポトーシスを誘導し,骨吸収を抑制することにより骨量を増加させる骨粗鬆症治療薬であるが,その一方で,ビスフォスフォネート関連顎骨壊死(BRONJ)を引きおこしてしまう26)。また,破骨細胞の形成・分化に必須なRANKLの働きを阻害する次世代の骨粗鬆症治療薬である抗RANKL抗体(デノスマブ)においても,顎骨壊死が1~2%で生じることが報告されている27,28)。破骨細胞をターゲットとした治療薬と顎骨の相性がここまで悪いのには,顎骨のおかれている特殊な環境がその要因として考えられる。口腔内のプラーク1 cm3中には,1012~1013の細菌が存在し,顎骨は薄い歯肉に覆われており,このような口腔粘膜は日常生活で傷害を受けやすい。さらに,歯と歯肉の間には歯肉溝という身体の他の部位では存在しない間隙があり,非常に感染を起こしやすい環境であることが考えられる。前述したように,骨代謝と免疫系は密接な関係があり,破骨細胞をターゲットとした治療薬により歯槽骨局所の免疫のバランスが崩されている可能性が示唆される。破骨細胞をターゲットとした歯周病治療薬の誕生にはこういった問題を解決する必要があると考えられる。

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