日本歯周病学会会誌
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原著
音波歯ブラシの臨床的および細菌学的パイロット研究
八島 章博鈴木 丈一郎田村 紗恵子松島 友二五味 一博新井 髙
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2015 年 57 巻 4 号 p. 159-167

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要旨

近年,音波歯ブラシが一般に普及している。音波歯ブラシの利点は高振動数によりプラーク除去効率に優れ,歯周ポケット内細菌に影響を与えていると考えられる。しかし,音波歯ブラシの歯周ポケット内細菌への影響を評価した研究は少ない。本研究では,音波歯ブラシのプラーク除去効果と臨床パラメータの変化,歯周ポケット内細菌への影響について評価した。

振動数の異なる音波歯ブラシ3種と手用ブラシを無作為に40名の被験者に割り振り,使用前,2, 4週後に臨床パラメータ(Probing Pocket Depth, Gingival Bleeding Index, Gingival Index)とPlaque Control Recordを評価した。歯周ポケット内細菌はPCR-Invader法により総菌数と歯周病原細菌数を評価した。

全歯ブラシで,ベースライン時に比べ,4週後のPlaque Control Recordと臨床パラメータで改善傾向を認めた。歯周ポケット内細菌は,いずれの歯ブラシでも総菌数の顕著な変化はみられなかったが,歯周病原細菌の中には音波歯ブラシの使用によって減少傾向を示す細菌種も存在した。

以上より,どの歯ブラシを用いても縁上プラークの減少と臨床パラメータの改善が認められ,一定の効果を有することが示された。また,音波歯ブラシは,歯周ポケット内細菌叢に影響を与える可能性のあることが示唆された。

緒言

プラークが歯肉に炎症を起こすことがLöeら1)によって,ヒトで初めて実験的に明らかにされて以来,プラークコントロールは歯周病の予防や治療を行う上で最も重要である。特に歯周病の予防および治療において,患者自身が行うブラッシングは極めて重要であり,現在まで様々なブラッシング法が考案されてきた。またブラッシングに用いる歯ブラシについても様々な器具が研究,報告2)されてきた。その中でも電動歯ブラシは,手用歯ブラシと比較して,プラークの除去効果に優れていることが報告3-7)され,我々もこれまでにブラッシング圧や振動数,歯ブラシ毛先の硬さや先端の動き方など,さまざまな報告8-12)を行ってきた。しかしその一方で,手用歯ブラシと比較しても有意な効果を示さなかったという報告13)もある。その報告によると電動歯ブラシによるブラッシングでのプラーク除去効果は,ヘッド部や運動様式のみならず,電動歯ブラシへの習熟度に大きく左右されると考えられている。しかしながら,患者の電動歯ブラシへの興味の高まりと低価格化に伴い,わが国でも広く用いられるようになっている。

現在,電動歯ブラシは様々なタイプが開発されている。主なものは反復振動型であり,内蔵された小型モーターによりブラシヘッドを振動・反復あるいは回転させることによって,機械的にプラークを除去する。我々はこれまでに振動型の反転角の違いによるプラーク除去に関する研究を行い,反転角がプラーク除去効果に大きな影響を与えていることを報告14)している。最近ではブラシヘッド部に音波振動を付与し,従来の電動歯ブラシと比較してプラーク除去効果がさらに優れる音波歯ブラシが開発されている15,16)。音波歯ブラシは毎分約3万回の音波振動によりブラシヘッドを動かすことによって,ブラシ先端に接触したプラークを機械的に直接落とす効果だけでなく,音波振動による細菌線毛の除去や細菌の表面構造の破壊17,18),音波振動が液体中を伝達することにより空気の泡を発生させる力,いわゆる「液体流動力」で直接毛先に接していない場所に付着しているプラークを除去することが可能であることが報告19,20)されている。しかしながら,これまでの音波歯ブラシの報告7,12)では,O' LearyのPlaque Control Recordによるプラークの除去効果やProbing Pocket Depth(PPD),Gingival Bleeding Index(GBI)やGingival Index(GI)といった臨床パラメータの評価,また歯周ポケット内の総菌数の評価が主であり,歯周ポケット内細菌叢の評価をしている研究はほとんどない。

近年,歯周ポケット内の細菌叢を簡便に定量・定性的に評価することが可能な方法としてPCR-Invader法21)が開発され,歯周治療22,23)やインプラント治療24)における細菌学的評価として用いられている。音波歯ブラシを用い定量・定性的な細菌学的評価を実施している報告25)はあるが,音波歯ブラシ1種のみであり,振動数の異なる音波歯ブラシを比較した研究はない。

そこで,本研究では市販の音波歯ブラシ3種類を用い振動数の違いがプラーク除去効果,臨床パラメータならびに歯周ポケット内細菌叢へ影響するか否か,検討した。

材料および方法

1. 使用歯ブラシ

本研究には以下に示す3種類の音波歯ブラシと1種類の手用歯ブラシを使用した。被験者には実験に先立ち,音波歯ブラシによる清掃は各社が推奨するマニュアルに準じた方法を指導し,手用歯ブラシによる清掃はスクラッビング法を指導した。

1)Mediclean551(オムロンヘルスケア/京都)

振動数:20,000回/分

2)sonicareFlexCare900(PHILIPS/Snoqualmie WA)振動数:31,000回/分

3)GUM TS-X5(SUNSTAR/大阪)

振動数:10,000回/分

4)PROCT RS-M(SUNSTAR/大阪)

各歯ブラシの特徴およびブラッシング方法を表1に示す。

表1 実験に使用した歯ブラシ

音波歯ブラシ3種と手用歯ブラシ1種を示す。音波歯ブラシのブラッシング法は各社が推奨する方法とし手用歯ブラシのブラッシング法はスクラッビング法を用いた。

2. 被験者および被験歯

被験者は鶴見大学歯学部附属病院保存科に来院し,全身疾患を有さない,軽度~中等度慢性歯周炎と診断された初診患者のうち,20歯以上が存在し上顎前歯部に4~6 mmの歯周ポケットを有する歯が3歯以上存在する非喫煙者で本研究への参加同意が得られた患者40名(男性14名,女性26名,平均年齢56.2±8.8歳)とした。なお,本研究は鶴見大学歯学部倫理審査委員会の承認のもと,被験者には本研究の主旨を書面で説明し同意を得た。また,本研究で利益相反に相当する事項は無い。

全顎の歯肉縁上歯石を超音波スケーラーあるいは手用スケーラーを用いて除去した時点をベースラインとし,被験者を無作為に4群に振り分けた。被験歯は分岐部等のプラーク蓄積因子の影響を避けるために上顎前歯部に4~6 mmの歯周ポケットを有する3歯とした。

表2 被験者のベースライン時状況

各歯ブラシ群の臨床パラメータおよびPlaque Control Record

いずれも値は平均値±標準偏差値を示す。

3. 臨床パラメータおよび細菌学的評価

Plaque Control Recordは全顎を対象に測定した。臨床パラメータとして,被験歯に対しPPD, GBI, GIの測定を行った。測定は1名の歯科医師によって行われた。

1)Plaque Control Record:O' Learyの評価26)に基づき,各歯4歯面を全歯に対し測定した。

2)PPD:カラーコードプローブ(Hu-Friedy/東京)を用いて被験歯を6点法0.5 mm単位で測定し,3歯の平均値を算出した。

3)GBI:被験歯を6点法でポケット測定時に,測定後10秒以内に出血した部位を出血点として(出血点数/6歯面×3歯)×100(%)で算出した。

4)GI:Löe and Silnessの評価27)に基づき,被験歯の6歯面でそれぞれ測定し,3歯の平均値を算出した。

歯周ポケット内の細菌は,被験歯表面の歯肉縁上プラークを,滅菌綿球を用いて可及的に除去し,40号の滅菌ペーパーポイント(PIERCE/東京)1本を歯周ポケット内に挿入し,30秒間静置後取り出して採取した。これを1 mlの滅菌水中に移し,BRANSON2510(ヤマト/東京)にて30秒間超音波処理したものを,歯肉縁下サンプルとした。得られた細菌サンプルの解析は(株)ビー・エム・エル(東京)に委託し,PCR-Invader法21)にて総菌数ならびに以下の歯周病原細菌の定量・定性分析を実施した。

1)Aggregatibacter actinomycetemcomitans

2)Prevotella intermedia

3)Porphyromonas gingivalis

4)Tannerella forsythia

5)Treponema denticola

4. 試験方法

ベースラインから各歯ブラシの使用を開始し,ベースライン,2週後,4週後に臨床パラメータの評価ならびに細菌学的評価のための試料採取を実施した。

被験者は指示されたブラッシング法で,朝晩2回のブラッシングを実施した。ブラッシング時間は歯ブラシによって若干の差があるものの,全顎でおおむね10分とした。本研究中の歯磨剤や洗口剤,補助的清掃用具の使用は禁止した。また,被験者には毎回のブラッシング後にブラッシング時間や有害事象の有無などの記録簿の記入を指示し,終了後に提出させた。

5. 統計分析

本研究は各群対象者10名のパイロット研究であるため例数が少なく,第2種の過誤が問題となり得る。従って統計学的検定は行わなかった。なお,各群の代表値には平均値,データのばらつきの指標には標準偏差を用いた。

結果

本研究では被験者40名全てが実験を終了した。なお,結果に影響を与えるような有害事象は認められなかった。ベースライン時の各群の状況を表2に示す。

1. 歯肉縁上プラーク評価

Plaque Control Recordの推移を図1に示す。Mediclean551群のベースラインでは60.4%で2週後には43.4%,4週後には38.5%へ減少した。sonicareFlexCare900群のベースラインでは51.4%で2週後には37.4%,4週後には22.1%へ減少した。GUM TS-X5群のベースラインでは56.6%で2週後には40.5%,4週後には34.3%へ減少した。PROCT RS-M群のベースラインでは48.6%で2週後には38.6%,4週後には36.2%へ減少した。いずれの群もベースラインから4週後にかけて減少が認められた。しかしながら,いずれの群も減少は同様で,明らかな群間の差は認められなかった。

図1 Plaque Control Record

全ての歯ブラシにおいて時系列に平均値の改善傾向を示した。

2. 臨床パラメータ評価

1) PPD:(図2-a

Mediclean551群のベースラインでは5.8 mmで2週後には5.2 mm, 4週後には4.6 mmへ減少した。sonicareFlexCare900群のベースラインでは4.6 mmで2週後には4.3 mm, 4週後には4.1 mmへ減少した。GUM TS-X5群のベースラインでは5.0 mmで2週後には4.7 mm, 4週後には4.4 mmへ減少した。PROCT RS-M群のベースラインでは5.8 mmで2週後には5.0 mm, 4週後には4.6 mmへ減少した。いずれの群もベースラインから4週後にかけて減少が認められた。しかしながら,いずれの群も減少は同様で,明らかな群間の差は認められなかった。

図2 臨床パラメータのベースライン,2週後および4週後

a:PPD

b:GBI

c:GI

いずれも全ての歯ブラシにおいて時系列に平均値の改善傾向を示した。

2) GBI:(図2-b

Mediclean551群のベースラインでは38.4%で2週後には27.2%,4週後には22.8%へ減少した。sonicareFlexCare900群のベースラインでは45.0%で2週後には33.9%,4週後には24.4%へ減少した。GUM TS-X5群のベースラインでは31.5%で2週後には29.6%,4週後には15.4%へ減少した。PROCT RS-M群のベースラインでは41.1%で2週後には40.0%,4週後には20.6%へ減少した。いずれの群もベースラインから4週後にかけて減少が認められた。しかしながら,いずれの群も減少は同様で,明らかな群間の差は認められなかった。

3) GI:(図2-c

Mediclean551群のベースラインでは1.87で2週後には1.70, 4週後には1.37へ減少した。sonicareFlexCare900群のベースラインでは1.53で2週後には1.50, 4週後には1.30へ減少した。GUM TS-X5群のベースラインでは1.63で2週後には1.52, 4週後には1.30へ減少した。PROCT RS-M群のベースラインでは1.77で2週後には1.60, 4週後には1.40へ減少した。いずれの群もベースラインから4週後にかけて減少が認められた。しかしながら,いずれの群も減少は同様で,明らかな群間の差は認められなかった。

3. 細菌学的評価(図3

全体として,いずれの群も経時的に明らかな変化や,群間における明らかな差はみられなかった。

1)Mediclean551群:総菌数はベースラインに比較して2週後,4週後での変化は認められなかった。歯周病原細菌数については,P. gingivalis数が歯ブラシの使用に伴い減少する傾向にあった。他の菌種については顕著な変化はみられなかった。

2)sonicareFlexCare900群:総菌数については,大きな変化は認められなかった。歯周病原細菌についてはP. gingivalisならびにT. denticola数が4週後に減少する傾向がみられた。

3)GUM TS-X5群:総菌数ならびに各歯周病原細菌数ともに大きな変化はみられなかった。

4)PROCT RS-M群:総菌数ならびに各歯周病原細菌数ともに大きな変化はみられなかった。

図3 歯周ポケット内細菌の変化

全ての歯ブラシにおいて総菌数に変化は認められなかった。

いずれのグラフの値は平均値±標準偏差値を示す。

考察

一般的に,電動歯ブラシは毎分2,500~7,000回程度の振動を有し,運動様式も反復運動式や回転運動式などがある。いずれの運動様式でも振動型の電動歯ブラシは,ブラッシング圧9)や歯ブラシの毛の種類や長さや硬さ10)などがプラーク除去効果に影響しているが,最も影響しているのは振動数14)である。そのため,高振動数の電動歯ブラシが開発されてきたが,プラークを効率よく除去出来る反面,エナメル質などの硬組織や歯肉などの軟組織への影響も報告9-11)されている。1990年代になると,電動歯ブラシの10倍近い振動数を有する音波歯ブラシが開発され,in vitroの研究では発生した音波エネルギーが細菌に対し直接作用し,線毛を除去してプラークを破壊する報告15,16)がされ,毛束部の接触による直接的な機械的除去効果に加えて,音波振動が液体中を伝達することにより空気の泡を発生させる力,いわゆる液体流動力で直接毛先に接していない場所のプラークを除去することが可能であるという報告17,18)もされている。

本研究では,市販の音波歯ブラシ3種と手用歯ブラシ1種を用い歯肉縁上プラーク量,臨床パラメータの改善および歯周ポケット内細菌について検討を行った。

歯肉縁上プラークをPlaque Control Recordで評価すると各歯ブラシともベースラインと比較して4週後では改善する傾向にあった。どの歯ブラシにおいても4週後に改善傾向が認められる理由は,歯ブラシへの慣れの影響によるものと思われる。Suchitaらは,電動歯ブラシを長期間使用することにより,慣れが生じ,有効な効果が生まれると報告28)している。

臨床パラメータとしてPPD, GBI, GIを評価した結果,どの歯ブラシにおいても全ての臨床パラメータでベースラインと比較して4週後に改善が示された。各歯ブラシにおいて臨床パラメータの改善を認めたのは,Plaque Control Recordが改善していることからプラークの除去に伴う炎症の改善によって生じたと考えられる。さらに,いずれの音波歯ブラシも音波振動による歯肉のマッサージ効果を有し,手用歯ブラシで行ったスクラッビング法にも歯肉のマッサージ効果を有することで表在性の炎症の軽減につながったものと考えられる。これまでに歯肉マッサージは歯周組織の炎症改善に影響するという報告29,30)があり,その効果は歯肉内縁上皮直下の結合組織における線維芽細胞の増殖,活性の亢進,歯肉上皮細胞の増殖,血管内皮細胞数の増加,末梢血液量の増加などによることが報告31,32)されている。また,本研究は,スケーリング直後に実施しているため,スケーリングによる効果も否定できない。この点については,今後の実験計画の検討課題としたい。

細菌学的な検索としてPCR-Invader法を用い,歯周ポケット内細菌の定量ならびに定性的な評価を行った。PCR-Invader法は16S-rRNAを標的としたPCR法で,歯周病原細菌の検出検査法33)である。培養法などに比較して,簡便でかつ感度が非常に高い方法である。ターゲットとする細菌種を定量的に検出することが可能なため,より詳細な解析が可能となる。

今回の結果では,どの歯ブラシにおいても歯周ポケット内総菌数の経時的な変化は認められなかった。in vitroにおいて音波歯ブラシで人工的に作製したバイオフィルムの除去効果を調べた研究では,人工的バイオフィルムの7割以上を除去することが可能であり,毛先から2.65 mm離れた部位までその効果がおよんだと報告34)されている。本研究では4~6 mmの歯周ポケットを対象としたため,音波振動による細菌線毛の除去や細菌の表面構造の破壊効果が歯周ポケット底部まで及ばず,歯面に付着しているバイオフィルムの破壊までには至らなかったと推測できる。このため,歯周ポケット内を浮遊している細菌とバイオフィルムから放出される浅在性細菌のみに効果が及び,歯周ポケット内細菌数に変化が見られなかったと考えられる。今後は,歯周ポケット深さの異なる群設定を行うとともに,細菌叢の長期的な変化についても解析を加える必要があると考える。

本研究は音波歯ブラシの臨床パラメータ,ならびに歯周ポケット内細菌に対する効果を検討したパイロット研究である。被験者数が少なく,各歯ブラシ間の比較など統計学的な有意差検定を実施するには至らなかった。しかしながら,音波歯ブラシの臨床効果をあらためて示すとともに,音波歯ブラシが歯周ポケット内細菌叢に影響を与える可能性を示唆する結果を得た。P. gingivalisT. denticolaは高振動型の音波歯ブラシで減少する傾向を示した。作用機序は不明であるが,高振動に伴うキャビテーション効果が影響している可能性が考えられる。今後,被験者数を増やし,結果の検証を行うとともに,歯周病原細菌の除去効果が高いブラシ形状等について検討していく予定である。

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